青山繁晴の「中国のたくらみ」

先の「中国のたくらみ」の稿にYouTubeへのリンクを載せました。
このYouTubeの動画は、アンカーの水曜日「青山繁晴のニュースdeズバリ」から抜粋したもので、尖閣での日・中の状況を解説したものでした。
半時間近くあるので、見通すのは大変だと言う意見や、この稿が尻切れとんぼだと言う指摘があったので、ここで要約することにしました。

中国海軍の軍艦7隻が接続水域を航行

この火曜日(2012.10.16)に中国艦船つまり軍艦7隻が初めての経路を取って尖閣に侵入したというニュースから青山さんの解説は始まります。官邸にも緊張が走りました。
なぜなら、その経路がこれまで何度となく取られていた沖縄・宮古島の間と違い、与那国島と日本ではほとんど知られていない小島・仲ノ神島の間を通って魚釣島を真っすぐに目指すものだったからです。
与那国島とほとんど無名の小島・仲ノ神島の間はきわめて狭く、そこへ向かって北上するということは、この地域を中国海軍が知り尽くしていることを意味しています。
そして、その先には尖閣がある。というわけで、官邸も緊張し興奮して情報収集に駆け回ったと思われるのだそうです。
ところが、案に相違して、中国の軍艦は尖閣のかなり手前ですっと取舵を切り、左にそれて接続水域の外に出ていったのです。


え、なんなんだこれはと思われた矢先、驚いたことに中国から連絡があったのだそうです。
その内容は「台風を避けただけで、尖閣に近づく意図はなかった」というものでした。それを知った青山さんは思わず笑ってしまったそうです。
中国が台風避難を口実に漁民に扮した工作員を上陸させるという手法をとるということは充分に予想されていたことだったからです。その通りのことをいって、さらに弁解がましい言い方をしていたからです。
では、本当の狙いはなんだったのか、結論からいうとアメリカ海軍と海上自衛隊の緊密な連携ぶりを調べたかったということです。やむなく対応した作戦行動をとったアメリカと日本の戦艦は、まあその手の内を明かさざるを得なかった訳ですし、中国海軍は目的を達したのでしょう。
こういう探査作戦は作戦行動として行われて当然です。

かつて、大韓航空機撃墜事件というのがありました。おそらくアメリカからの要請もあって、大韓航空機がソ連の領空を侵犯しました。
1983年9月1日のことです。大韓航空のボーイング747が200人を超える乗客を乗せたまま、ソ連の領空を侵犯しました。当然ソ連の戦闘機がスクランブルを掛けます。
主翼を右左と上下させて後に続く様に指示し、飛行場に着陸させようとする。それでも従わなかったら銃撃のサインの後、銃撃します。大韓航空機は警告を無視して飛び続け領空を出ようとしたところで撃墜され、269人全員が死亡しました。このなかには28人の日本人も含まれていました。
領空を侵犯した時に敵国がどのように対応するか、どの辺りからどれくらいのスクランブル機が上がってくるのかなどということは、大変知りたいことなのです。
同じ様に領海のせめぎ合いの中においても同様に、相手がどのように対応して行動するかを観察しようとするのは当然とことです。
何も取って付けたような言い訳をすることはないのです。海上自衛隊の戦艦が砲撃することは絶対にないのですから。しかし、すぐに弁解がましい言い訳をして来た。それはどうしてなのでしょうか。

ところで、この行動がなぜ10月16日だったのか。それには理由がありました。
それは10月14日に行われた海上自衛隊の観艦式でした。観艦式というのは海軍の海のパレードで帝国海軍が明治期から行っていたものです。最近では3年に一度行われています。

写真を見てください。これどう見ても海軍です。ぼくは石破さんみたいな軍事オタクでもないし、右翼でもありません。でも、この写真を見ているとどうしても、あの日露の戦争で最強といわれたバルチック艦隊を壊滅させ、当時世界中のどの国からも戦いたくないと思われるようになった帝国海軍の末裔だという風に見て取れてしまうのです。

輸送船「ひゅうが」戦闘機ではなくヘリを運ぶだけだから空母ではないという解釈

この写真右の戦艦、空母のようです。後に続く戦艦は護衛艦でしょう。

X型方向蛇の高性能潜水艦。Xの形をした方向蛇を持ち、海中での航行性能が極めて高い。

しかし海上自衛隊では、これを空母とはいっていません。戦闘機を載せないからだそうですが、しかし攻撃型のヘリを載せます。英語では空母はAircraft Carrierですから、護衛艦などというもんではなく明らかにヘリ空母であることは、この広い甲板を観ても明らかです。ここに潜水艦を攻撃できる攻撃型ヘリを積んでいます。

今回の観艦式で特徴的であったのは、外国海軍の参加があったことでした。オーストラリア海軍、シンガポール海軍、そして米海軍。こうした外国海軍のの参加は実に10年ぶりのことでした。
考えてみれば、これらの国々は中国を取り巻く国であり、急膨張する中国の圧力を有形無形に受けている国でもあった、海軍の中国包囲網ともいえるようです。


ところで、青山さんをもっとも驚かしたのは野田総理の式辞でした。

その内容は、左の絵のようなものでした。
これは、ガツンとくるほど中国に強い衝撃を与えるものであったと思われると、青山さんはいいます。それはどうしてか。
まず第一番目。こんな趣旨のことを日本の首相が言ったことはなかったし、明らかに受けて立ちますよという表明であったからでしょう。でも中国は、もっと前に以前との戦略変更を行っているのですから、日本もそれにしっかり対応したと言っていいと思います。
次に二番目の五省ですが、五省(ごせい)とは、旧大日本帝国海軍の士官学校である海軍兵学校(現在は海上自衛隊幹部候補生学校)において用いられた五つの訓戒のことです。それは、次のようなものでした。
帝国海軍の五省
一、至誠(しせい)に悖(もと)る勿(な)かりしか「真心に反する点はなかったか」
一、言行に恥づる勿かりしか「言行不一致な点はなかったか」
一、気力に缺(か)くる勿かりしか「精神力は十分であったか」
一、努力に憾(うら)み勿かりしか「十分に努力したか」
一、不精に亘(わた)る勿かりしか「最後まで十分に取り組んだか」
野田首相は「帝国海軍の伝統を伝える五省を改めて諸君に問いかけます」といい、続けてこれを読み上げたのです。
さらには、「諸君が一層奮励努力することを切に望み私の訓示とします」と締めくくりました。
この文言は、日本海海戦での東郷平八郎元帥の「皇国の興廃はこの一戦にあり、各員一層奮励努力せよ」の引用と見られます。
ぼくも驚きました。どぜうが滝を登る鯉に変身したような感じではありませんか。

中国海軍は大いに驚きました。1000隻も送った漁船も近づけなかったし、アメリカの空母2隻も控えている。下手をすればその弱さを世界に知らすことになって、世界に恥をさらすことになると考え、あの接近行動を取ってはみたものの、すぐに迂回し、さらにはあの言い訳を送って来たのではないかというのが、青山さんの解釈のようです。たしかに、今回の尖閣を巡る日本の対応は、中国の予想と異なり一歩も引かないものだったといえます。これまでは、強く出れば必ず引いて謝るということが多かったのですから。
一方では、日本には味方のようなことを言ってくれる沢山の文化人や元外交官もいる。中国もやりにくいことだと思っているのかもしれません。

さて、ここからが青山さんのいう「中国のたくらみ」なのですが、「ターゲットは日本ではない」という話なのです。中国はいま言った様に攻勢どころかむしろ押込められている。押込められているからこそとんでもない作戦を考えているというのです。そのたくらみとは、「中国人民解放軍政治工作条例の三戦」なのだそうです。そしてこれをアメリカ本土で展開するというものです。
三戦とは、「世論戦・心理戦・法律戦」のことをいいます。
中国では人民解放軍の任務としてこの三戦を遂行することが法律で定められていて、これをアメリカで展開しつつあるというのです。確かに現代の戦争は、昔の様にドンパチや切り合いをすることではなく、本命は情報戦であることは確かです。尖閣奪取の為に長期展望のもとに三戦を実行しつつあるといいます。
世論戦とは、アメリカの世論を尖閣は中国のものだと信じさせる様にマスコミを使って誘導する。アメリカの世論を動かせば日本の世論も動くだろうと中国は信じている。
オンボロで使い物にならない旧式の戦艦でも何でも数を揃えてデモンストレーションすれば、ああこれはかなわないと日本の人民は思うだろう。これが心理戦です。実際柴崎さんの様にすでにそう信じてしまってまんまと心理戦の餌食になっているご仁も多いようです。その言説が影響力を持つ識者の方々は、右翼の言説だと決めつけずに専門家の意見を聞き、実態をよく理解した上で発言して頂きたいものです。
法律戦とは、国際法その他の法律の抜け道を研究することです。

現在もっとも顕著に進んでいるのは世論戦であると思われます。これには、メディアと大学がその舞台となるといいます。
この左の写真にある男はクリストフというピューリッツア賞も取った有名記者なのですが、「尖閣諸島の裏にある不都合な真実」という完全に中国に有利な記事を書いています。このニューヨーク・タイムスの記者は、かつて「日本陸軍が現地の子供の人肉を食べた」というでっち上げの記事を書いた問題記者です。その右の写真は、ニューヨーク・タイムスに載った見開きの全面広告で、「尖閣は中国の領土」と書いてあります。載せたのはチャイナ・デーリーという中国の新聞社です。でも普通のページの様に挟まっているから、気をつけてみて初めて広告と分かる状態です。
でもどうして、こういうことが楽々と出来るのかといえば、それはアメリカの新聞社の経営状況があるといわれます。写真の発言はニューヨーク・タイムスと提携している朝日新聞の記者の言だそうです。余談ながら、朝日も経営難は一緒で給料は1割減となったそうです。少しばかり洞察力のある人なら、朝日の報道には嫌気がさして遠ざかっていく筈ですから売り上げも落ちてくるのでしょう。
さて、ハーバード大学をはじめとするアメリカの大学には中国の学生がどんどん送り込まれています。お金を寄付すれば入学できますから。
そんな訳で、アメリカのみならず世界中で、尖閣は中国に分があると思われる風潮を長い年月をかけて醸成した後に、奪い取るというのが中国の戦略だといいます。

では、このような中国の、どんどん進行しているこの攻勢に対してどう対応すればいいのでしょうか。青山さんはこのようにいいます。一番重要なのは日本の国民の理解、そして世論です。
先日の「朝生」はテーマが尖閣問題でした。
例によって田原総一郎さんが、強引に反対側の意見を封じる対応をし、普通は都合が悪くなると「はい、コマーシャル」といいます。あの孫崎氏を重用していました。ツイッターの意見の半分くらいが孫崎さんの悪口だという状況が出席者から齎されると、田原総一郎は、激しい口調で「それは孫崎さんが素晴らしいというこことだ」と訳の分からないことをいいました。彼の言では、ネットは右翼なのだそうです。
「日中友好」と「尖閣」ではどちらが大事かという最初に設定された視聴者への問いに対する回答と意見が、2名ずつ紹介されたのですが、その時に同じ質問を出席者から聞きたいという逆質問がありました。これは面白かった。一瞬全員が凍り付く感じになり、田原氏は大声で「だから言ってるじゃないか。小異を捨てて大同に就くということだよ」となんか、かつて自民党の総裁がいって批判されたと同じ訳の分からないことを言い、この質問を回避しました。まあ正体が現れたと思って、ぼくは何となく笑ってしまったのでした。
それにしても、はじめから終わりまで、中国という国の分析が全くなかったのは不思議なことに思えました。
最後に最初の問いに対する回答の集計が発表され、「尖閣」と答えた人は71%と多数と占めたのは当然といえば当然のことだと思い、少し安心しました。
しかし、紹介された意見の中に「ケーキを分ける秘訣は、お兄ちゃんが二つに切って弟が好きな方を取る、そういうとんちのような解決策が知恵だと思う。戦争なんかしたらまた1000年の遺恨を生む」というのがあり、うなずく出席者がいたのに驚きました。国際社会は兄弟に例えるべくもないし、領土をケーキと比べるなんてと、少し肌寒さを感じた次第。

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