東京裁判(3)〜自虐史観の創造〜

 アルジェリア人質事件は、かなりびっくりするような結末を迎えました。
 この事件はまた、日本の国際的に見ての特殊性を浮かび上がらせたともいえるようです。自衛隊はこの国の国民の救出はおろか輸送にも行けない。日本人は一歩外国に出たら、孤立無援だということのようです。
 この状態を国際的に普通の状態にする為には、自衛隊法を改正しないといけません。また、憲法も変えないといけないということになるかもしれない。
 しかし、そんな話になると、なぜかみんなは急におどおどし、チャンスに乗じていっている訳ではありませんなどと言い訳めいた物言いになります。いったいどうしてなのだろうか。こうしたいじましさへの疑問は、これまでぼくが常に感じていたことでもありました。

 これこそが、60年ほどの間に、どうしようもなく私たちにしみ込んでしまった自虐史観というもののなせる業ではなかろうか。色々な書物を読んだりインターネットで調べたりするうちに、より直接的に、それは東京裁判史観ともいえるものだと気付いてきました。
 1948(昭和23)年の11月、東京裁判の判決が出て、7人が死刑になりました。アメリカはこの時から、「戦前の日本は悪かった」というプロパガンダを強力に推進します。「太平洋戦争史」という一方的な歴史を、各新聞に連載させ、戦前の日本=悪という史観を普及させます。同時に徹底的な情報統制や検閲を行い,それは手紙にまで及びました。
 一方、20万人にも及ぶ公職追放を行いました。小学校の校長クラスにまで及んだこの暴挙で日本の心ある人たちの発言は封じられました。
 追放の人選をしたのは,GHQ民政局のケーディス大佐でした。この男は、憲法の草案を書いたことでも知られているのですが,このことについては後に書きます。

 ケーディスは、共産党員ではなかったけれど,それに近いくらいアカがかっていて、後にアメリカに帰った時、アメリカ外交のドンのケナンから「あなたは日本を共産国にしようとしたそうですね」と皮肉を言われたそうです。
 彼は日本語が出来なかったので、協力者を必要としました。協力したのはカナダ人のノーマンという共産党員だったそうです。彼は牧師の息子で日本で育ちました。
 ハーバード大学で、「日本における近代国家の成立」というテーマで博士号を取ったのですが,このとき彼を指導したのが、あの羽仁五郎だったのだそうです。
 ぼくが若い頃、羽仁五郎といえばゲバ棒学生の神様みたいな人だったといえると思いますし,ぼくもそんな風に、とんでもなく偉い人だと思っていました。彼の著書「都市の論理」は、そうした学生のバイブルだったと思います。
 ノーマンと親しく、彼が来日して探し出したのが都留重人でした。だから、ノーマン、都留重人、羽仁五郎などが話し合って、追放者のリストアップを行ったと考えられます。
 この人たちが作ったリストはひどく杜撰なもので、それは松下幸之助や石橋湛山までもが引っかかったことからも分かる訳です。この二人はすぐに復活したのですが,全く復活しない分野がありました。教育界とジャーナリズムの分野でした。
 マルクス主義の世界革命を信じるような人たちが、教育界のトップに立ち、日本の大学は、戦前の日本をひっくり返したいと思った人、コミンテルンと直接的間接的に関係のある人で埋め尽くされました。その思潮は弟子に受け継がれ、「戦前の日本は真っ黒けの軍国主義」という捉え方が、固定したままいまに続くことになった訳です。この状況はジャーナリズムの世界も変わらないようです。
 「戦前の日本は悪かった」と主張して職を得た人を「敗戦利得者」と呼ぶのだそうです。
 アメリカは、「文明に対する悪として日本を裁き、日本が戦争を出来ないようにしてしまえば、世界は平和になる」と考えたようです。この考えが、東京裁判の基底の思想であり,それはあの占領軍規定ともいえる日本国憲法の前文に現れているといえます。
 「日本国民は・・・平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」
 この意味はなにか。それは、日本以外の国は立派だが,日本だけが悪い人間の集まりだから、その「生存」までも他国に預けようという主旨なのではないのか。

 さてこの憲法を書いたケーディスについて述べることにします。
 この男はけっこういい加減な男だったようです。旧華族の元子爵鳥尾敬光氏の奥様・鳥尾多江と不倫の温泉旅行に行ったのがばれて、罷免されたともいわれています。「ピンキー」というニックネームがありました。それはレッドに近いという意味だったようです。
 ごく最近、国際アナリストの伊藤貫氏の書いたものを読む機会がありました。彼は,ケーディスの部下だった3人の米官僚にインタビューした模様を述べています。
 その文章を引用しましょう。
ーーー彼らは3人とも、上司であったケーディス大佐を嫌っていた。「ケーディスは嘘つきだ。アイツはケロッとして平気で嘘をつく男だから、部下から信用されていなかった」とか、「ケーディスは底意地の悪いユダヤ人だ。調子がよくて狡猾な奴だった」などと言っていた。ケーディスは自信たっぷりの偽善的で自惚れた左翼人だったようで、GHQ官僚の中には、「ケーディスの言動はどうも不可解だ。アイツはアメリカ共産党の秘密党員じゃないか」と疑う者もいたという。
 財務省とペンタゴンの元官僚は、日本政府がいまだに憲法を破棄していないことを不思議がっていた。特にペンタゴン官僚は、次のように述べていた。
「僕はまだ若かったから、『お前たちが日本の憲法をつくれ』という命令を受けた時、僕みたいな若造が勝手に他国の憲法を書くようなことをしていいのか、と感じた。
 特に憲法9条に関して、違和感を持った。『軍隊を持たない』とか、『交戦権を持たない』とか、そんな内容の憲法を日本に押しつけたら、日本は独立国としての基礎的な条件を満たさなくなる。だから憲法をつくりながら、『日本人はこんな憲法を受け入れることはないだろう』と思っていた。たとえ一時的に日本人が受け入れたフリをしたとしても、占領が終了したら即刻、日本政府はアメリカの作った憲法を破棄して、自分たちの憲法をつくるだろうと予測していた。だからなぜ日本人が今でもあの憲法を変えていないのか、僕にはまったくその理由が理解できない」ーーー

 先日の「たかじんのそこまで言って委員会」で、田島女史は尖閣問題に関して、「話し合わないと行けません。隣組でも何でももめたら話し合うでしょう」といい、
「たかが自衛隊」とか、「変えるのは憲法を汚すことになる」などと、ギャグともつかぬ事をのべ、傍聴席の失笑をかったようでしたが,その聖なる憲法がこんないきさつで出来たと知ったらどう思うのでしょうか。

 最近のテレビのコメンテーターをウオッチするのが、大変楽しみになって来ています。なぜか、冷静さを失って本音を吐いてしまうような人が増えている感じなのです。たとえば、アンカーの森田実さん。彼は学生時代に党員だったのですが,喧嘩して飛び出し、ばりばりの全学連のブント(共産主義者同盟)を作った人。
 田原総一郎も少々変ですが、まあ彼は、元々定見のない人だから仕方ないですね。
 問題は,田中宇です。次の文を見てください。これは「ドイツの金塊引き上げがドル崩壊を誘発する?」の結びの部分です。
 日本は、安倍政権が米連銀の自滅的なドル増刷を真似て日銀に円増刷をやらせ、対米従属維持のため尖閣問題で中国との対立を煽り、自ら進んで負け組に参加している。日本とドイツは60年前に一緒に戦って大敗北したが、今回はドイツが勝ち組に、日本は負け組に入っている。国際社会で勝ち組と負け組がはっきりして、負け組の敗北性が強まっている今の時期に、わざわざ負け組に入る傾向を強めているのが、日本のすばらしい(大馬鹿な)ところだ。これは昨年末の総選挙で国民が民意で決めたことだから、日本人は自己責任を貫き、今後大貧民になっても文句を言ってはならない。清貧な生活を楽しむべきである。

 冷静な分析が得意で、それを特徴とする彼としては,不可思議なエキセントリックさではないでしょうか。なぜにこうまで、挑戦的になる必要があるのかと思ってしまいます。「心配するな。いまの若者は、高度成長を知らない人たちだから、平気で清貧を楽しむでしょう。日本の誇りを失うことなく。」
 そう言い返したくなりました。
 次は,「日本経済を自滅にみちびく対米従属」の結びです。

 今の日本の不調そのものは米国の責任でない。勝手に自滅しようとしている米国のやり方を、対米従属し続けようとする日本が勝手に真似て自滅しようとしているだけだ。米国を敵視するつもりはない。しかし日本の崩壊はいやだ。官僚独裁が延々と続く日本の「国家」を支持する気持ちは失われているが、日本の人々と風土と自然をこよなく愛する者として、米国が先に破綻してくれることを、八百万の神仏に祈願するばかりだ。

 明確な反論が思い浮かばないまま、憤懣やるかたない気分になっていたら、こんなお誘いが目に入りました。
2月4日 孫崎享×田中宇 トークイベント 「どうする?! 対米従属」
 そうか、そうか。謀略史観の巨頭対談か。アメリカは助けてくれないと意気投合するんだろう。漠然とした予測が的中した気分で、何となく愉快な気分になったのでした。

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