朝生とサナダムシ

朝生 連休前に録画してあった「朝まで生テレビ」を見た。
 朝生は「ネット世代が日本を変える」と銘打ったもので、正直いって少々は期待していた。しかし、いつのもことながらイライラムカムカがつのり、気分が悪くなった。
 集められた人たちは、当然ネットに深くかかわる若者だった。
 田原総一朗は例によって、変にへりくだった態度で「若い人たちにインタビューするつもり」との前口上でスタートした。

 冒頭に指名された駒沢弘樹というスピーカーは、こんな意見を述べた。
 「自分たちは戦争も知らないし安保闘争も知らない世代だ。これまでの日本は、政治集団の非難の応酬の中で推移して来た。いまは、批判はもういいから自分たちで解決策を作って行こうよという世代で、それが自分たちに課せられた課題だと思っている」
 これは、面白い始まりだと思った。
 すると、すかさず田原氏がこう割って入った。
 「みなさん、DISって知ってる」
 何いってるんだ。こんな風に話題の腰を折らなければ、話は深まって行く筈なのにと思った。

 ぼくは知らなかったのでグーグって見ると「ニコニコ大百科」に、disrespectの略。respect(尊敬)の反対、つまりこき下ろすこととあった。
 誰かが、このDISとは「ディスリ」というのだがと説明し、そして「悪口を言うことは興味ない。マスメディアはディスリを続けて来た。その向こうに行かねばならない」と続けた。
 この発言を受けて、NHKを止めたという堀潤という人物が、こう述べた。
 「メディアはずっとディスリの中にあった。マスメディア対ネット・メディアの二極対立です。ぼくは、これからは両方のいい所をとってミックスするような方向を目指すべきではなかろうか」
 そこで、田原はまた腰を折る。
 「ところで、なんでNHK止めたの?」

 彼はともかく話が深くなるのを阻止しようとしているのか、まともな筋道を壊そうとしているのか。何しろ冒頭からこうなんだから。
 彼が、NHKを止めた理由をやや面白おかしく話していると、ホリエモンが、少しスリムになって、そしてなんだかラリっているような表情ですこしもつれた口調で割って入った。そして、「ちょっとした旅行から帰ってくると・・・」と始め、自分がNHKを始めとするマスコミから今受けている対応について語り、他の人がマスコミの対応について語ろうとすると、また田原が口を挟む。
 「ところで、シャバの空気は?」
 ホリエモンは、むかしこの朝生で尖閣問題に関して、金美麗さんに怒られたと、何度も発言した。それは尖閣なんかあげてしまえばいい、北方領土は2島でいい。必要ならば買い戻せばいいなどと、主張したからだった。永い囚われの月日を過ごしても、歴史の勉強は全くしなかったらしい。考えは全く変わらずというか、無知そのものという感じで、かつて無知さ幼稚さを指摘されたことへの反省どころか、その事実をギャグ化して語る救いようのない状態と思えた。
 田原氏は、常に自分の意見を代弁してくれる出席者を側に置いて、そこに発言を振りながら話を進めるという手法を取っている。今回はそれがホリエモンだったようだ。

 彼は、靖国になぜ参拝するのか。憲法の第一章に天皇があるのに違和感を覚えるといい、田原は「大日本憲法は天皇だけに主権があった。それが国民に移った」という。ホリエモンは、天皇は芸能としてあるいは伝統としての天皇という。ホリエモンが、尖閣問題について相手が怒っているのなら「ごめんなさいといったら駄目なの」というと、田原は「もっと勉強してよ」と返す。話はバラバラなのである。
 田原は、戦勝国が日本を裁いた。日清・日露はよかった。後は侵略だという。
 独特の独断と偏見で、周りの人たちの日本人が本来持っている美しくない部分を巧みに引き出す話術を駆使してゆく。若い人たちは、柔軟な思考を持っており、色々の考えをバランスさせているのだが、まともと思える考えはパスされ、日本の国柄や歴史を無視したような部分の考えが引き出されて行く。
 こんなことの連続で、ともかく田原は、発言者の言葉の意味する所を聞き取っていない。そして、平気で話の腰を折る。別の発言者を指名して話題を変える。こんな人が26年も番組を続けて来たことは、信じがたいといまさらのように思った。
 出席者の若者は、礼儀正しくて、温厚な人ばかりのようで、それに田原氏のやり方態度は周知のことのようで、怒りもせずによくつきあっていると感心した。

 最後の方で、出席者たちは、田原氏の発言をほとんど無視して議論を始めた。すると「みんな聞きたくないなら、もういいや」と田原氏はむくれて発言を止めた。でもすべての出席者はほとんど知らん顔。それは当然で彼が必死で話している内容といったら、野田首相が中国のメンツを潰したのが尖閣問題の原因であり、靖国の大量議員参拝が今回の緊張の原因、問題は国の間にバイプがないことが問題などと、どこででもいわれているような上っ面のことを、賢しらにため口で語る。
 それを、承っている面々は、ひどく優しく思いやりがあるのか、なんにも知らない馬鹿者たちなのか、まあホリエモンを除けば、そんなバカとも思えなかった。
 みんなが聞いてくれないので、少しいらだったのか、「尖閣の問題は日本が悪い」と断定した。それは田中角栄と周恩来の合意があったから。さらに、それはいえないと秘密めかしていた、彼のいうパイプを明かした。それは野中広務氏だという。少し耄碌しておいでなのかと思ってしまった。
 終わりに近づいた時、一人が、「後5分になって、ようやくタイトルに即した意見がいえて嬉しいのですが・・・」と皮肉をいった。すると、驚いたことに田原氏は「今日は皆さんの意見が聞きたかった」と返した。救いようがないと思った。

sanada それにしても、この番組に出て、あちこちに話を持ってまわされていると、少なからず頭脳が破壊されていくのではないか。26年間もの間、この番組は、もしかしたら、日本の覚醒を阻害し続けて来たのかも知れないとさえ思える。
 サナダムシという寄生虫がいて、腸に食らいつくと体節は千切れて出てくるのだが、頭部は容易に排出されることはなく、宿主の栄養を吸い取って行く。宿主が栄養が充分だとあまり問題ではなく、最近ではダイエットやその他の効用があると唱えて、この虫をのむ人もいるそうだ。
 考えてみれば、日本には高名な学者・識者・言論人・文学者・ジャーナリストなどが、いわゆる戦後利得者として存在していらっしゃる。このなかで特に問題なのは、お茶の間まで侵入するテレビ新聞などのマスコミに巣食う人なのではないか。そう思ったのである。  

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