トランプ政権と「二つの中国」

 安倍首相は米国に旅立ちました。
 これは、この会談の成果を云々する前に、日本の国際的な立ち位置を明確に世界に印象付けることであることは明らかだと思います。
 アメリカでも我が国でも、トランプ叩きとも言える報道が流れ続けています。ぼくはそうした報道を見ながらなんかどうもしっくりこない。いわゆる隔靴掻痒という感じがしてならないのです。話が枝葉末節すぎるのではないか。そんな気がしてしまうのです。
 なので、ぼくがいろいろと勉強した上で、と言っても大したことでもないのですが、考えていることを述べてみたいと思います。

 まずは、やはり最初に今に至る世界の動きというか状況を見ないといけない。
 第二次大戦の後、圧倒的な軍事力とドル支配によって米国は世界の覇権を握りました。ところが、決定的に世界支配の決め手であった核爆弾を、数年後ソ連が開発したことによって米・ソの冷戦構造が出来上がり、世界は自由主義世界と社会主義世界とのにらみ合いの時代になります。
 この冷戦構造の世界は、各所で代理戦争の惨禍を生みながら、それなりの安定を保つことができたのです。

 しかしこの安定は、ソ連邦の崩壊によって壊れました。その結果、ベトナム戦争の失敗によって痛手を受けていたとはいえ、米国の一人勝ちの時代となりました。ソ連はなくなり、プーチンという強力な指導者をいただくロシアが生まれました。
 さて、大東亜戦争以前から欧米諸国から密かに援助を受けていた、支那大陸の蒋介石政権と毛沢東勢力は、この戦争の終結後、内戦に突入し、敗れた蒋介石軍を台湾に追いやって、中華人民共和国(チャイナ)を設立します。戦争終結後4年目のことでした。

 もともと日本は、毛沢東軍(八路軍)の謀略によって、蒋介石軍との戦争に引きずり込まれることになりました。いわゆる盧溝橋事件に発する日華事変です。これは毛沢東によって、日中戦争と呼ばれています。
 毛沢東軍は夜陰に乗じて、日本軍(関東軍)と蒋介石軍の双方に銃弾を撃ち込み、戦うように仕向けたことが、明らかになっています。(最近では、さすがにまずいと思い出したのか、チャイナはキッカケを柳条湖事件に言い換え始めたようです。
 いずれにしろ、日本は毛沢東軍とは、全く戦っていません。戦ったのは蒋介石軍でした。それを抗日戦争と言い換えたのは毛沢東です。

 台湾に逃れた蒋介石は、その後も支那大陸の主権を主張し、首都は北京と考えていましたし、米国も国連もそれを認め、毛沢東の中華人民共和国(チャイナ)を認めませんでした。
 ところが、チャイナ成立の3年後の1972年2月、米国のニクソンが突如訪中しました。ここで米国はチャイナを認めます。その時、毛沢東は台湾はチャイナの領土だと強硬に主張したのですが、米国はこの主張に同意はしませんでした。
 ただ、チャイナがそう考えることは理解するという玉虫色の決着を図ったのです。以後、台湾は国であるようで国でないというなんとも曖昧なままの状態で推移してきたわけです。だから台湾から言えば、首都はなお北京であるとも言えるのです。
 しかし台湾の新大統領は自分を支那人とは考えない民主進歩党の蔡英文であり、彼女は台湾は実体として明らかに国家として成立しているのだから、現状維持が望ましいと考えていると思われます。

 あの電撃訪問と言われたニクソン訪中を画策し成功させたのは、ユダヤ人のキッシンジャーでした。彼は今や90歳を超えていますが、今も現役として、習近平やプーチンそしてトランプとも緊密な連携を保ち会話を続けていると言われています。なんとなく気味が悪い。
 トランプ大統領は、これまでの大統領では使われなかったツイッターというメディアを駆使して、間断なく情報発信を行い、これが世界に波紋を広げでいます。
 チャイナに対しても色々な発信を行っていまして、チャイナはどちらかといえば、防戦一方で、なんとも的外れで、大方の失笑を買うような反論を繰り返しているようです。
 しかし、そのチャイナに強烈なパンチを食らわせたのは「二つの中国」というツイートだったとぼくは思います。

 チャイナという国は、権力欲にかられた毛沢東という人物が人間の持つ忌むべき性向を巧みに肥大させ利用することによって、統一された国だったと言えます。
 建国後も例えば大躍進政策などという無謀な政策を行った結果、5000万人とも言われる餓死者を出します。その結果、さすがに実権を奪われるのですが、ここで文化大革命という実に巧みな暴力運動を誘導し、権力奪回に成功するわけです。
 毛沢東の死後、国是であった毛沢東主義という暴力革命論は捨て去られ、いわば社会主義的資本主義なる訳の分からん考えが鄧小平によって唱えられます。

 この間、日米安保で緊密に結びついていたはずの米国による頭越しのニクソン訪中で、ショックを受けた日本は、大慌てで同じ年の9月日中友好条約を結び国交を回復します。
 この時、それまで戦争を共に戦い、緊密だった台湾は切り捨てられたと言えます。
 しかし、台湾の人たちは恨むこともなく、先の東日本大震災の時、翌12日お見舞金を送ってくれました。その額は1億台湾ドル(約2億8000万円)でした。
 一方、チャイナは翌日お見舞いの言葉を天皇陛下あてに送ったものの、14日になってようやく3000万元(約3億7500万円)相当の援助物資を送ることを決めたのです。四川大地震での日本の尽力の後にもかかわらずでした。派遣された救援隊はたったの15人で、調査しただけで帰ったと言います。

 日本の莫大な額のODA資金を得て、チャイナは急速な経済的発展を遂げます。そして起こったのが天安門事件でした。それは、1989年6月4日(日曜日)のことで、天安門広場に集まった学生や一般市民は、人民解放軍によって銃撃され、あるいは戦車によってひき殺されました。のしイカのようになった轢死体をYouTubeで見ることができます。
 この時の死者は、チャイナの公式発表では319人となっています。しかし、これが本当であるはずはなく、実際はわからないものの、1000人以上とも、またはソ連共産党情報局による3000人となっています。
 この事件によって、チャイナは国際的な大非難にさらされることになり、国際的に完全に孤立したのです。この窮状を救ったのは日本国でした。
 なんと、天皇皇后両陛下の訪問が行われたのです。1992年のことでした。これによって、世界はチャイナを許したと言えるでしょう。
 
 どうしても話があちこちに飛んで、本筋に入れません。
 トランプの「二つの中国」発言です。これはチャイナが絶対に認められないことなのです。あるいは触れてはならないことでしょう。
 チャイナは統一の動乱のどさくさに紛れて、無理やりに軍事的に奪い取った国があります。それはモンゴルであり、ウィグルです。もし台湾を認めたら、これらの国も認めなければならず、それはチャイナの崩壊につながる。とういう脈絡の推論が普通の考えだと思われます。

 しかし、トランプ発言とセットになったもう一つの発言がありました。それはトランプ政権で国務副長官になると噂されているジョン・ボルトン氏によるものです。米軍を台湾に駐留させるべきだというのです(1月17日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙)。
 確かにこれは、チャイナにとってはストレート・パンチのような発言です。それにしても、沖縄からの米軍撤退を唱える反日日本人の反対運動派がこの発言を支持しないのは不思議なことです。

ロシアの中古空母を、カジノを開くためと称し、エンジンなどを外されて購入。なんとか動くようにしたと言われる。

 チャイナは早速反応しました。それが空母遼寧の出航だったと言えます。一応駆逐艦やフリゲート艦の艦隊を組み、台湾を一周して見せました。そしてこれ見よがしに戦闘機の発着の映像を発信しました。
 しかし青山繁晴氏によれば、全くお笑いのお芝居だったのだそうです。
 あの戦闘機には、燃料が少ししか入っておらず、お腹にはあるべきミサイル等の爆弾が、少ししか付いていなかった。なぜかといえば、全装備すれば離陸できないからだそうです。
 それは、専門家が離陸の映像を見れば判るそうなのです。
 そして、こうした艦隊には、潜水艦が随行するのが常識なのですが、それがなかった。なぜそれが分かるかといえば、潜水艦がいれば必ず潜水艦救護艦が同行するのが常のはず。それがいなかったというのです。
 そんなすぐわかるようなお芝居をなぜやったのか。答えは簡単にわかるでしょう。

 現在の世界の覇権は一応米国が優位を保っているとはいえ、それは薄れつつあります。これに対して、大きく立ち上がってきているのがチャイナです。この国は恐るべき速さで軍備を拡大し、アメリカに迫っていると言えます。
 核を保有する国は多いのですが、そのビック・スリーとも言えるのが、米露とチャイナです。でも米露にはどちらも世界を統一しようという気はないと言っていいでしょう。
 しかし、チャイナだけは違います。この国はもともと世界統一の野望を持つ国であり、それを明言してはばからない。
 オバマとの会談では、太平洋を二分して世界を統治しようと持ちかけたけれど、賛同は得られませんでした。しかしその弱腰を見越して、あっという間に南シナ海に人工基地を造成してしまいました。その狙いはなんなのでしょうか。

 核を持つ国が対峙した時、一撃を打ち合ったのちの第二撃は、原子力潜水艦から発射されます。しかし、これを反撃撃破することはできません。原子力潜水艦は浮上することなく潜行でき、その所在を突き止めることができないからです。
 米国もロシアも世界の海の何処へでも移動でき、地球上のどの地点にも核ミサイルを打ち込むことができるわけです。おあいこの力を持っている。
 しかし、チャイナにはそれがない。原子力潜水艦はあるようですが、まともなものではないようです。

 かわぐちかいじの『沈黙の艦隊』にも描かれたごとく、潜水艦は最終兵器と言えます。そしてこれを撃破するには、最終的には潜水艦によるしかない。
 ところで、日本の潜水艦は世界で最も優秀というのが定説です。どこが優れているかといえば、音がしないということです。海の底では、音だけが頼りで、音が出なければ所在を知ることができません。
 というわけで、数が少なくても日本の潜水艦はチャイナに十分対応できるのです。

赤い点線は九段線と呼ばれるもので、チャイナは勝手にこの線を引き、この内側は領海と宣言している。俗に「中国の赤い舌」と呼ばれる

 チャイナにとって、したがって、優れた原潜を保有し、これを太平洋の深みに潜ませることができて初めて、米国やロシアに対等の立場に立ち得るわけです。
 しかし、潜水艦は常に見張られており、動き出すと追尾されます。これを避けるためには、深く潜る必要がある。チャイナ沿岸はみんな浅く、潜水艦は丸見えです。そこで外に出て深く潜りたい。
 チャイナが尖閣を欲しがる理由は、外海に出る中継点としての基地が必要なのです。
 東シナ海でも、南沙諸島(スプラトリー諸島)と西沙諸島(パラセル諸島)を埋め立て軍事基地を作ったチャイナは、三つ目の人工基地をスカボロー礁に作れば、三角形の内側は潜水艦が見つけられない潜水艦基地となる。これがチャイナが望む形なのでしょう。

 米国はこれを決して許さない。そのためにはあらゆる手段を用いてチャイナの企みを阻止すると思われます。
 もしかしたら、尖閣は取られるかもしれない。しかしスカボロ礁の人工基地は絶対に止めると思います。その時には、台湾に米軍が展開することになるかもしれないと思います。

 こうしたせめぎ合いは、必ず経済的な支えを必要とするので、経済的な成長が必要となります。だからトランプの経済政策先行は当たり前の話だと言えます。
 不安定なせめぎ合いを続ける世界の情勢がどういう推移をたどるのか。それを見極めることができるのだろうか。
 それはちょっと、この齢では無理かもしれないな、などと考えているのです。

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