ファーウェイ問題の裏にあるもの

 最近のニュースには、いわゆる「元徴用工」問題とか韓国船のビーム照射事件、ファーウェイ問題など、気になるものが目白押しです。でも、この孟晩舟カナダで逮捕というニュースは、抜群に大きな事件だと思います。

2014年10月、モスクワでプーチンロシア大統領と対談する孟晩舟氏。

 この女性は、ファーウェイという会社の副社長で、社長の仁正非の妹で、会社の開発技術を統括するCFOです。
 この逮捕で報じられたことですが、孟晩舟は7つか8つのパスポートを持っていた。普通の会社の人でないことがわかります。逮捕の容疑はイラン経済制裁決議に違反したというものでした。
 それにしても、8つのパスポートを持つプロのスパイのような人がいとも簡単に捕まったものだと思いました。これはあくまでも憶測ですが、理由が考えられます。

 アメリカは今年から出入国に関してエスタというシステムを使い始めていました。最近では、みなさんご存知のように、空港で指紋と顔写真を取られることが多いです。このシステムを使うと、指紋を追跡して、現在の場所がわかるといいます。
 チャイナでは、過去に12個のパスポートを持っていた人があったそうですが、孟晩舟はいくら8つのパスポートを操っても、居場所を眩ますことはできなかったのでしょう。
 アメリカはカナダに引き渡しを求めました。渡してもらっては困る。チャイナはすかさずカナダ人を二人三人と逮捕しました。
 これで思い出すのですが、我が国の巡視船にチャイナの漁船が体当たりして、船長が逮捕された時、あの国は日本の商社マンを逮捕しました。これにぶるった野田政権はこの船長を釈放し、ファーストクラスに乗せて送り返したのです。この時の成功体験が、今回カナダ人の逮捕を招いたという説があります。

 孟晩舟は保釈が認められたそうですが、カナダが彼女をアメリカに引き渡すことはないと思われます。カナダの首相はカナダの鳩山由紀夫と言われているそうで、アメリカに渡すことはないとチャイナも考えていると思われます。でももしアメリカに渡され裁判にかけられると、経済制裁破りで30年、銀行を騙して口座を作った銀行詐欺で30年、パスポート8枚の問題で25年計85年の刑をもらうことになる。
 アメリカが考えてることは、司法取引で全てを吐かせて、証人保護プログラムで身の安全を保証するということでしょう。でもそうなったらファーウェイは完全に潰れます。それだけではない。チャイナにとって決定的なダメージとなるので、どんなことをしても渡さないと考えられます。
 彼女は四人の警備保障会社のガードマンが守っているそうですが、本当は傭兵だと言われています。でも彼女が本当に恐れているのは、自国に消されることかもしれません。

中国系米国籍物理学者の張首晟。

 実は、彼女の逮捕のすぐ後で、習近平が進めている「中国制造2025」というプロジェクトの主要メンバーであった張首晟というスタンフォード大教授が香港で飛び降り自殺をしています。この若い先生はノーベル賞候補とも言われる人でした。家で死んだと報道されたのですが、帰宅途中という話もあって、何やら空恐ろしいことです。

 話を本題のファーウェイにしないといけないのですが、その前に現在のチャイナの状況について知っておく必要があります。

米中軍備比較。

 この国は1949年の建国以来、繰り返しもう潰れるとか分裂するとか言われながら、発展を続けアメリカに次ぐ経済大国になってきました。軍備の増強も凄まじく米国に追いつくと考える人もいるようです。しかし、参考になるグラフがあって、軍事費の伸びはすごいのですが、この線が交わったからといって、それはそれだけのこと。軍事の力は二次元の面積で表されることになり、そうであれば、そう簡単に追いつくことはできないというのです。
 ここに至るまで、チャイナは決してすんなり発展してきたわけではなく、毛沢東時代があり、文革が終わって、改革開放の鄧小平時代からの大発展になります。この時には天安門事件があって世界から孤立しますが、日本の天皇陛下の訪中という救いによって回復します。そして今の習近平時代となるわけです。

 チャイナは13億の民と言われますが、その内訳は特殊で、9億の農村戸籍と4億の都市戸籍の二つがあって、これは変えることができない身分制ともいえるものです。貧しい農村戸籍9億の内の3億が都市に移動し、いわゆる農民工として生きています。だからチャイナの労働者というのは、この3億の農民工と都市戸籍の4億を足した7億が都市人口ということになります。
 ところが、この農民工への差別はひどいもので、子供は学校へ入学が認められないそうです。都市戸籍のデスクに座っている人の月給は1万元〜2万元ですが、農民工は3000元〜5000元です。彼らは間違いなく奴隷だという人もいます。住まいの場所も決められていて、これは現在のアパルトヘイトと呼ぶべき状態です。こうした奴隷労働の状況がそこにあって、これがチャイナの奇跡の大成長の理由だったのは間違いないところです。
 ぼくたち日本人が目にする爆買いをするチャイニーズは、4億人の人たちだったということになります。
 しかしこれはいつまでも続かず、経済的発展につれて人件費が上昇し、チャイナは世界の工場の役目を果たせなくなってきました。これを解決するには、産業構造を変えないといけません。この問題は、習近平前の胡錦濤の時代からあったのですが、これを解決するにはどうしたらいいかわからない。それは外国の企業から盗むしかなかったのです。
 
 習近平は、「毛沢東を超える。鄧小平を変える」というスローガンを掲げます。
 彼は、かつて株式市場の取引を凍結したことからもわかりますが、資本主義経済は自由にやらせているから問題が起こるのだ。共産党がコントロールする経済では、どんな問題も解決できるのだと思い込んでいるフシがあります。共産党は世界一の金持ちになった。でもこのまま金持ちの中産階級が増え続けると困ったことになる。やはり毛沢東時代に戻るべきなのだ。党内で大きく左に舵を切ろう。すべての分野で権威ある共産党がコントロールする。今はAIもある。ITもある。この考えで世界の世論を味方につけることができるだろう。
 中華帝国の夢を唱え、一帯一路そして「中国制造2025」のプロジェクトを進める。そしてITによる完全な監視システムを構築すれば、不満分子を押さえこめるはずだ。習近平はあさはかにもそう考えたようです。
 かつて毛沢東は、豊作のためにはスズメが害をなすと考え、スズメ撲滅運動を唱えます。その結果、イナゴが大発生して凶作となりました。イギリスのように鉄鋼国になると唱えて、農民に田んぼに溶鉱炉を作らせ、鍋・釜を熔かさせますが、ろくな鉄はできず、山の木々は燃料に切り出され、そこらじゅうがハゲ山となりました。
 毛沢東のようなカリスマ性もない習近平ですが、毛沢東を超えたいと思っているのでしょう。少し図に乗りすぎた結果、トランプの虎の尾を踏んでしまった。
 
 一帯一路は壮大なプランですが、中国制造2025も見事な計画です。この計画は3ステップを踏んでいて、ステップ1では,2025年までに製造強国の仲間入りを果たし,ステップ2では,2035年までに製造強国の中位レベルに到達する。ステップ3では,建国100周年の2049年までに製造強国の先頭グループに入るとの目標を掲げています。
 アメリカは二次大戦の以前からシナ大陸中国には、将来の市場と考えていましたから、大いに発展に協力的でした。チャイナでは、特に鄧小平時代には協力を惜しみませんでした。アメリカの協力がなければ、今日のチャイナはありません。
 国際慣行を無視したやり方を大目に見ていたアメリカも、トランプ政権になって、いい加減にしろと言い出した。強い圧力をかけ始めたアメリカは、それを緩める兆しはありません。
 共産党内では、意見が分かれ、中国制造2025を引っ込めよう。そうすれば鄧小平時代のような状況になるかもしれないという意見まであるそうです。

 さて、ファーウェイ問題です。
 これは、基本的には携帯電話の規格争いと言えます。とは言っても、かつてのVHSとベータマックスのようなものとは違うのです。こうした情報機器は国の安全保障に関わるものですから、一種今日的な戦争とも言えます。
 携帯電話には、アップルのアイフォンとグーグルのアンドロイド、この二つの方式があります。いずれもCPU部分とモデムチップ部分からなっています。
 チャイナなどで、どんどん新しい携帯が出てくるというのは、この2つの部分を組み合わせれば、どこのメーカーでも作れてしまうからです。この二つの部品は汎用で作られています。アメリカが持っている半導体メーカーはクアルコムというところが最大手、ここがスナップドラゴンという製品を世界中の携帯電話会社に売っています。
 これに対して中国のファーウェイは自社の系列のハイシリコンというCPU会社を持っていてモデムチップ会社も持っている。だからファーウェイは自分で携帯の開発技術を持っているということになるわけです。
 この間、アメリカがZTEに部品を売らないことにすると、3ヶ月間工場が止まりました。なぜ工場が止まったかというと、ZTEはインテルとクアルコムの製品を買ってきて組み立てていただけの会社だったからなんです。一方、ファーウェイは自社内でCPUとモデムを作る技術を持っている。だからファーウェイの方はアメリカにとって非常に脅威だということになるのです。
 
 ファーウェイという会社は、元人民解放軍にいた任正非という人が、民間で会社を立ち上げたのが始まりです。最初から軍の援助を受けていたし、いろんな先端技術を平気で盗みながら成長したと言われています。盗んだ技術は開発費がかかりませんからきわめて安価な製品ができる。そうしてどんどん大きくなり、一帯一路の波に乗って、携帯の基地局をどんどん作って行きました。アメリカは、これを大いに危険視したわけです。
 アメリカは世界中の国に、ファーウェイの製品を使うのか使わないのかはっきりしろと、いわば踏み絵を迫ったわけです。
 ドイツのように、中央銀行がチャイナのマネーロンダリングをやっていた容疑で、一挙に150人もの捜査員が入ったような国は、少々回答を渋っているようですが、G7の国はみんなファーウェイ排除を決めました。
 チャイナでは、これを世界はAIで2分割されると言っている人がいるようですが、ぼくはそうはならないと思います。
 アフリカはチャイナを取るだろうという予測があります。でも、ヨーロッパとの関係でそうならないと見る人もいます。

 今回ファーウェイとZTEばかりが問題とされていますが、アメリカが国防権限法で問題としたのは、この二つだけではなく防犯カメラメーカ−3社も入っています。これらの会社の製品は極めて優秀で、それは最近発売されたファーウェイ携帯のカメラを見るとわかります。
 この3つの会社の一つは世界シェア1位の会社なのですが、アメリカはこのチップがウィグルやチベットの人権弾圧に使われていると言っています。
 また、ここの技術が自動運転の技術と連携しています。だからこの3社を潰すことによって、自動運転やAIの技術も止めることができるし、ファーウェイの規格争いも潰すことができる。当然一帯一路にも影響が及びます。
 今後ファーウェイに対して、アメリカが取ることができる強烈な手段があります。
 ファーウェイ携帯のOSはアンドロイドなのですから、チャイナの企業にはグーグルのアンドロイドOSを渡さない。そしてバージョンをあげて、使えなくしてしまう。そうするとファーウェイの携帯は世界中で使えなくなります。
 ファーウェイは自分でOSを作ることができるはずですが、開発にコストがかかり、現在の安価さというメリットを失うことになります。
 ただこのやり方は、味方への影響も大きいので、すぐにはやらず、警告を何度も打って身内のみんなが対策・対応を行ったあたりでグシャッとやる。といういつもの方法をとることになるでしょう。
 激しさを増してきた米中の対立、いやそれは今世紀的な戦争といってもいいものは、一体どのよう経過をたどるのだろう。大いに気になるところです。

※この記事は桜チャンネルの討論『中国経済は本当に崩壊するのか』やBSフジ「プライムニュース」ネットのニュースなどを参考にしています。
 また、1949年にできた中華人民共和国はそれ以前の国・中国と区別するためチャイナと呼んでいます。 

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