真空管パワー・アンプの故障

 この前に書いたように、孫がビートルズのレコードを持って、我が家のステレオを聴きに来るようになって、何年ぶりかにオーディオに触れる機会が増えてきていました。
 あの当時ぼくが買い集めていたレコードといえば、一枚千円ほどの廉価版が主なものでした。それとバロック音楽の全集なども買っていました。特にモーツアルトが好きでしたから、モーツアルトの全曲の全集なども揃えていました。でもこの12巻に及ぶ大冊の全集には、針を通すことはなかったのです。
 「足腰が立たんようになったら、これを聴き始める」と心に決めていたのです。
 この全集を開くことになるのは、そんな先ではない。そんな気がしています。

 高校生の頃から、ラベルとドビュッシーが好きでした。ベートーベンはなぜかあまり好きになれませんでした。
まあ、クラシック一辺倒と言ってもいい状態でした。とはいっても、その頃はちょっとヒッピーめいた雰囲気で、バンダナのはちまきをしたり、バイクに乗ってロックのコンサートに行くこともありました。
 だから、レコードにはそういうもの、ジャズやロックも含まれています。
 孫が、「ジイジ、こんなレコードを持ってるんや」と驚くぐらい、彼に言わせると歴史的名盤といわれるものはほとんど揃っているそうです。自分の好き嫌いではなく、周りの若者からの進言で買ったものがほとんどだからなのでしょう。

 年が明けてからだったと思うのですが、いつものように孫が来て、買ってきたビートルズを鳴らしていました。
 ぼくはなんとなくいやに音が痩せてるなと思ったのです。気をつけて聴くと、どうやら右のスピーカーが鳴っていないようなのです。孫の伽琉は「テレビが邪魔してるからとちがう?」といいます。いつもこんなんで、以前からだというのです。
 確かに右のタンノイの前には55型の液晶テレビの画面が立ちはだかっています。しかしおかしい。そう思って、アンプで右、左と切り替えたり、片側だけを鳴らしたりしてチェックして、ようやく右のスピーカーが鳴っていないことが分かったのです。
 そして、原因は右の管球式のパワーアンプA-3000が働いていないことが分かったのです。

LUXKIT A-3000 これを2台作ったわけです。

 スピーカーを鳴らすためには、それなりのパワーが必要で、その電気的パワーを増幅する働きをしているのが、パワーアンプです。ステレオでは右と左の2系統の音を出しますが、この二つの音を普通は一台のパワーアンプで扱っています。内部で二つの音を分離しますから、どうしても右の音と左の音が混ざり合うということが起こります。右に行くべき音信号が少し左に漏れるということになります。これを、クロストークといい、漏れ出す音のレベルをデシベルで表します。
 これをなくするためには、右用と左用のそれぞれのパワーアンプを用意すればいいわけです。ぼくは、それを狙って、LuxmanというオーディオメーカーのA-3000という管球式のモノーラル・パワーアンプを2台作ることにしたのです。

中を見ると、40年前の作業が思い出されて、懐かしかった。

 ASSEMBLY MANUALという82ページの大判の冊子が2冊残っていますが、中を見るだけで呆然とするくらいの作業量で、当時40才になったばかりのぼくは若かったのだなと思いました。
 このアンプは今までに、確か1回はオーバホールに出しているのですが、真空管も多分劣化したのでしょう。だだ真空管の火は灯っていますから、球切れというわけではありません。
 自分で修理するだけのエネルギーはもうないし、教え子のオヤギくんに頼むことにしました。

 彼は、京都の有名な製作所に勤めていたのですが、人間関係に気を使うのを嫌って、一人でコンピューターや電気関係の仕事をしています。

トランスの足に線が巻き付けられただけで、半田付けがない。この状態で通電はあって40年も動き続けていたということです。

 忙しい顧客のウェブ管理の仕事の合間にやってきてくれた彼は、中を見てコンデンサーが逝かれていることを見つけました。他に抵抗素子も幾つか劣化しているとのことです。家に持ち帰って、パーツの入れ替えをしてくれることになりました。
 そして、驚くべきことが分かったのです。彼が送ってきた写真は、ほんとびっくりするようなものでした。なんと、ぼくは一箇所半田のつけ忘れをしていたのです。半田付けのないまま、A-3000は40年も動き続けていたことになります。今度の故障もそれが原因だったかもしれません。

 劣化の見られる素子はみんな交換してもらうことにしました。出力真空管も2台で計4本全部変えることにしました。このアンプに初めてつけるイギリス原産のKT88という球については次回というこで。(つづく) 

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