日露共同記者会見でのプーチン・スピーチ

 世間の耳目をそばだたしめていた日露首脳会談が終わって一週間ほどが経ったでしょうか。ようやく静かさを取り戻したようにも見えます。
 プーチン訪日のこの会談への期待は、今年になって大いに盛り上がっていたのですが、クリミヤ併合をなじるアメリカを筆頭とするG7諸国の経済制裁やドーピング問題などで、年内中には無理だとの見方に変わっていきました。

 ところが、安倍首相の強い意志でプーチン訪日は年末と決まりました。そして、その日程が近づくとともに、それまでの少々浮かれた楽観論から一転して、何の成果も期待できない。食い逃げされるだけだという悲観的な警戒論に変わったようでした。
 このことは、しかしかなり前から安倍首相も認識しておられたようです。というのは、元時事通信社の記者だったジャーナリストからこんな話を聞きました。

 それは10月半ばのことだったそうです。彼は安倍首相と会食した時、前に座った安倍さんが「話はそんな甘いもんではない。成果らしいものは期待できないよ」といい、続けて、「だかから総選挙なんかないんだ」とおっしゃたというのです。
 考えてみれば、それは当たり前の話です。ロシアにとってみれば、問題の島々は、戦争の結果得たものであり、その領有は文句をつけられて手放すいわれはないのです。また、いくら経済的に困っているからといって、ロシア国民が金での解決法を納得すると考えるのは、ちょっと違うと思います。 

 この領土問題を考える時に前提として考えるべきことがあるとぼくは思っています。 
 まずロシアは、戦後70年間、ずっとこれらの島々を実効支配してきたのであり、別に返さなくても痛くもかゆくもない。
 ぼくたち日本人は、ちょっときつい言い方をすれば、戦後守銭奴と成り下がった日本人は、なんでもお金と損得で考えますが、領土の問題、主権の問題はそれだけで解決する話ではないと知るべきなのです。
 食い逃げ、食い逃げと危惧を叫ぶ人が多かったのですが、これはロシア人であっても同じことで、引き渡したけれどそれに見合うだけのものが得られなければ、日本に食い逃げされたと思うでしょう。

 歴史的な様々な経緯から言って、いくらとんでもない理不尽さがあると主張しても国際社会はそれを認めるような話ではないし、国民の同意や了承も得られません。実効支配というのはそれほど決定的で、それを打ち破るには、それなりの力つまり軍事力が必要なのです。
 つまり、我が国はとてつもないハンディキャップを抱えたまま交渉を続けてきたというべきです。この間の経緯を検証すれば、それはそれだけで何冊もの本が書けるでしょう。
 でもそんなことをしてもあまり意味はないのです。
 おそらく日本の側のしくじりによって、ロシアに日本は交渉の意志なしと取られたことによって10年間の空白が生まれていました。
 それを打ち破ったのは、「人たらし」とも言われる安倍首相の外交力であるし、地球儀外交と呼ばれるその戦略を評価するプーチンでもあったと思います。

 この二人の共通認識は、サンフランシスコ講和条約に調印しなかったロシアと我が国が今も戦争が終わっていないという異常状態が続く相接する二大国である。これを解決するためには平和条約を結ばねばならない。
 この平和条約に関しては、1956年の日ソ共同宣言があります。これは、領土返還交渉が決着がつかないまま、ともかく平和条約を締結したのちに歯舞・色丹の2島を引き渡しますというもので、後のことはそれから考えましょうということになりました。これはソ連の国会でも承認され批准も済んでいました。しかし、日本側には反対が強かったし、ソ連崩壊もあって実現しなかった。
 今となっては、ともかく、平和条約を結ぶことが最重要ということです。

 我が日本国は、領土の引き渡しがあってからの平和条約ですよと言い募って解決ができなかったわけです。
 そこで安部さんは新しい解決法を考えましょうと提唱して折衝を始めたわけです。この新しいアプローチなるものの正体ははっきりしなかったのですが、どう考えても島の引き渡しがまず行われることはないと思います。
 今回の交渉で、共同での経済活動の合意がなされたと言いますが、ロシア主権のもとでのそれでは、ロシアの領有を認めたことになるので、了承することはできません。

 細かいことに言及すると、きりがないので書きませんが、主権つまり領有権を失わない状態を保ちつつ、平和条約締結を目指す長い道のりが始まったということになるのでしょう。
 この変転激しい世界の中での日露交渉にはなんら確証みたいなものは見出せないような気もします。しかし楽観的な見方こそが力の元であると考えるべきです。
 安倍さんとプーチンさんに期待するしか方法はないのでしょう。
 そしてこのプーチンさんの考えを端的に示しているのが、共同記者会見のスピーチだと思いました。
 そこで、これを動画でYouTubeにアップし、また文字起こしを行いました。

プーチン氏のスピーチ(共同記者会見)
Q:今回の会談でプーチン大統領にとって政治分野経済分野での最大の成果は何か?
Q:北方四島での「共同経済活動」をどのように平和条約締結に結びつけるのか?
Q:平和条約締結に関しては先日のインタビューで「我々のパートナーの柔軟性にかかっている」と発言
Q:かつて「引き分け」という表現を使ったが大統領の主張は”後退”している印象を受ける
Q:日本に柔軟性を求めるならロシア側はどのような柔軟性を示すのか?

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あなたの質問に答えるためには、まずは歴史に触れたいと思います。
尊敬する記者、友人の皆さん
プチャーチン提督は、ロシア政府と皇帝の合意のもとに、その島を日本に引き渡した。
それまでは、クリル初登はロシアの後悔者によって発見されたため、ロシアは自国の領土と認識していた。
平和条約を締結するためにロシアはクリル諸島を日本に引き渡した。
ちょうど50年たって、日本はその島だけでは満足できないと思うようになった。
1905年の日露戦争の後に、戦争の結果としてサハリンの半分を取得した。
あの時、国境は北緯50度の線で決めた後に日本はサハリンの残りの北半分も獲得した。
ちなみにポーツマス条約のおかげで、その領土からロシア国民を追放する権利も獲得した。
ロシア国民は残ってもよかったが、日本には、ロシア国民を追放する権利もあった。
40年後の1945年の戦争の後に、ソ連はサハリンを戻しただけでなく、南クリル諸島も手に入れることができた。

昨日、安倍首相と話をして、南クリル諸島の元住人の心に残る手紙を読んだが、私たちは、あの島の「歴史的なピンポン」に終止符を打った方がいいと思う。
最終的、長期的な平和は、日本とロシアの根本的な関心事であると理解しなければなりません。
もちろん、多くの課題が存在するが、まずは経済活動、および安全保障の問題です。
1956年、日本とソ連がこの争いの解決に近づいた。

熱弁を振るうウラジミール・プーチン

日ソ共同宣言に署名し、批准した時、この地域に関心のある米国のダレス国務長官は、日本を恫喝した。日本が「アメリカの国益に反することをすれば沖縄諸島全域は、アメリカの領土になる」と。
私は、どうしてこのような話をしているのでしょうか。
米国を含め、すべての地域の国益を尊重しなければなりません。
これは明らかなことです。これは何を意味するのでしょうか?
例えば、ロシアのウラジオストクなどロシア極東には大きな港が2つある。我々の船は、太平洋に出たりする。そこで何が起きるのか、理解しなけらばならない。
日本と米国の間の関係は特別です。日本と米国の間に安保条約が存在しており、日本は決められた責務を負っています。
この日米関係はどうなるのか? 私たちには分かりません。
(領土問題解決への)”柔軟性”のためには、日本の首相および友人の皆さんは、こういったすべてのニュアンスやロシア側のすべての懸念を考慮してほしい。

私たちは1956年の(日ソ)共同宣言に基づいた交渉に戻りました。
この宣言は「日本に2島を返還する」内容になっていたが、何をベースにすればよいのか明らかになっていなかった。ただし、平和条約を締結しなければ、この宣言は最終的に履行されないと明記されている。
この宣言の中に非常に多くのニュアンスや課題が存在しています。
これにかかわるすべての人たちのために私たちはプロとして、友好的な気持ちのもと最終目標に向けて動かなければなりません。
最終目標とは何でしょうか? 冒頭にも触れましたが、改めて繰り返します。
首相閣下の提案を実現していけば、この島は日露の間に”争いの種”ではなく、日本とロシアをつなぐ存在になり得る可能性がある。
首相が提案したプランを実現する方向に動いでいればだが。
首相の提案とは、諸島で経済活動のための特別な組織を作り上げ、合意を締結し、協力のメカニズムを作り、それをベースにして、平和条約問題を解決できる条件を作り上げていく。
我々は、経済関係の確立にしか興味がなく、平和条約は”二次的なもの”と考えている人がいれば、これは違うと断言したい。
私の意見では、平和条約の締結が一番重要だと思う。なぜならば平和条約は歴史的、中長期的な見通しの中で、長期的な協力のためのベースを作り上げるからです。これは、あの島での活動よりももっと重要です。
日本は、ロシアとの協力なしで約70年間を過ごしてきましたし、私たちも同じです。このまま続けても可能です。ただし、これは正しいでしょうか。いいえ、正しくない。
努力を結集すれば、両国の経済の競争力は何倍にも増える。これは私たちが目指すべきことです。
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この長いスピーチは淀みなく、熱を持って語られ、終わるとともに拍手が起こりました。
彼は一度もメモを見ることがなかったと思います。
 どこか外国で、日本の記者から北方領土問題について質問を受けた時、その記者に対して、こう言いました。
「あなた、今の質問をメモを見ながら言いましたね。誰かにこう聞きなさいと言われたのではないですか? そういった人たちの考えは古いのです。私は新しい考えを持っています」と。
 プーチンには柔道家であるということだけではなく、日本という国を伝統を保ちつつ近代化を行った手本とすべき国だと著書に書いていると聞きました。
 ピョートル大帝が行った欧米化ではなく、どうやら脱欧入亜を目指しており、ここにも安倍さんとの接点があるようです。

その外交的手腕を芸術的とさえ評する人もいる安倍首相


 それにしても安倍首相の外交手腕は、まさに地球を俯瞰したスケールの大きいものであり、その戦略は見事と言うほかはない。
 来年はヨーロッパの各国での選挙で新しい首脳が誕生すると思われますが、そうした中にあって、安倍さんは大ベテラン、G7では長老となります。
 我が国日本は、この70年間どこの国とも戦わなかったし、非難されるような汚いこともしていない。我が国は聖徳太子の昔から「和を貴しとなす」平和国家であり、五箇条の御誓文の第1条の「万機公論に決すべし」の民主主義国であり、世界からの訪問客を驚かせた貧しくても道徳心が高い清潔な国であったことを誇っていいのです。
 我が国のこの和を基にする平和主義と万機公論の民主主義は、のちに生まれた血なまぐさいフランスのそれとは違うものです。

 この日本独自の他国に羨ましがられ尊敬される日本の国体と理念を掲げて、世界平和を唱えて世界各国の調和を按配してゆく中において、やがては北方領土に関して無理のない形での解決が見えてくる。そういう日を気長に待てばいいのではないか。そんな風に思っています。

プーチン・スピーチの動画