オーディオ昔語りの始まり

 年が明けてしばらくした頃だったと思うのですが、ぼく愛用のオーディオが故障しました。
 むかしオーディオに凝っていたことがあって、なかなかのシステムを組んでおり、それがずっと動いていたのです。オーディオに狂ったのは70年代のことですから、40年以上も昔のことになります。
 そんなオーディオ熱はとっくに冷めていたのですが、数年前から高校生の孫がビートルズに凝って、LPレコードを買って、我が家に持ってくるようになりました。そんなわけで、プレーヤーの扱いなどを教える必要に迫られ、ステレオを聞く機会が少し増えてきたのです。

上から、プレーヤー、プリアンプ、CDプレーヤー、FMチューナー、パワーアンプ。

 居間のぼくがいつも座る椅子の前にはスピーカーがあり、後ろにはアンプ類が載った特注の鉄製ラックがあります。自動ピアノを挟んでスピーカーが置かれているのですが、この下の床は地面から築き上げのコンクリートになっています。アンプ用の鉄製ラックの下もやはりコンクリート築き上げです。
 これによって、スピーカーとレコードが共振して起こる避けがたいハウリングという現象を断つことができると考えたのです。今の家に建て替える前の家では、ハウリング対策に大変苦労したことがあったから、この家の設計をする時に、そういう対策をしたというわけです。このアイデアは、見事に成功しています。

 それから、電圧変動もターンテーブルの回転に影響するだけではなく、アンプなどの音質に影響するということを聞いたので、アンプ用にはエアコン用の高電圧の配線を用意することにしました。
 居間は、吹き抜けになっていて、これもステレオのためかと聞かれますが、これは山小屋をイメージしての設計で二階にぐるりと部屋をつくったら、自然に吹き抜けになっただけのことです。

 スピーカーはタンノイというイギリスの銘柄で、レクタンギュラー・ヨークという名器のスピーカーを据えています。詳しい説明は省きますが、高音用のラッパの外周りが低音用のスピーカーのコーンとなっているという独特のスピーカーです。スピーカーの箱の前面にはツウィーターと呼ばれる高音用スピーカーとウーハーという低音用のものが、合計二つか三つのスピーカーがセットされるのが普通なのですが、タンノイは違っていて、スピーカーは一つなのです。
 カラーテレビで言うと、あのトリニトロンテレビみたいなもので、音の出所が一点だということで、音のズレがないわけです。それだけシャープな音がするとも言えます。
 このタンノイスピーカーは片方だけで、当時のぼくの月給分しましたから、買うのには一大決心が必要でした。

 タンノイスピーカーをその特徴である艶やかな音色で鳴らすには、真空管アンプが最適だと言われていました。何かにつけ凝り性のぼくは、真空管アンプを自作することにしたのでした。
 もともとぼくのオーディオ狂いは、自作から始まっていました。
 時は70年代、高度成長の時代でした。オーディオ熱が高まっており、オーディオの自作キットは、各種売られていたのです。
 
 最初に作ったのは、ケンクラフトというメーカーのキットでした。ケンクラフトというのはトリオという音響会社にある自作を望む無線マニヤやオーディオ愛好者を対象とする部門でした。

この当時のパーツはよほどいいものが使われていたのか、42年の長い年月を経てもなお、ほぼ完全に稼働した

 このケンクラフトのチューナーとプリメイアンプが一体となったキットを組み上げました。
 最近、このチューナーが物置の奥から、いろいろなオーディオ関係のガラクタとともに出てきたのです。出てきても、それを自分が組んだということに全く気付きませんでした。調べてみて、トリオという会社があって、その自作オーディオ部門がケンクラフトということが分かり、そしてようやく自分が組んだものであることを思い出したのです。このチューナーの側面には日付が刻印されたプラスチックテープが貼ってあり、そこには「DEC.1977」とありました。
 
 これで、AMとFM放送を受信できますが、音は鳴りません。そこで、スピーカーを作りました。スピーカーのキットもありました。裁断された板が売られており、箱は木ネジと接着剤で作れます。スピーカーを付ける穴は、糸鋸でゴリゴリ切り取りました。
 FM放送の音が頑張って作ったスピーカーから鳴った時は、きっと嬉しかったはずです。これでAM放送もFMステレオ放送も楽しめることになりました。ちょうどそのころ、日本ではFMステレオ放送が始まっていました。
 続いては、当然の流れとして、レコードを鳴らしたくなります。スピーカーも上等のものが欲しくなりました。

 スピーカーは、山水といメーカーが箱を作りJBLをつけたものを買いました。レコード・プレーヤーはドイツ製の
デュアル(Dual)というオート・チェンジャーを購入することにしたのです。

Dual 1229 オート・チェンジャー、ドイツ製。電源は入るがターンテーブルは動かない。ベルトが伸びているようだ。

 このデュアルというプレーヤーは、自動で動きました。ターンテーブルにレコードを載せてレバーを押すと、ターンテーブルが回転を始め、アームが持ち上がり、レコードの端に移動して、盤面に針が降りる。演奏が終わりになると、アームが上がり、元に戻ると、回転が止まる。
 オート・チェンジャーと名前があるのには、意味がありました。オートプレーヤーではないのです。
 ターンテーブルのセンターに約10センチほどの付属のポールを立てて、この上に5・6枚のレコードを載せて、スタートレバーを押します。すると、乗っているレコードが下から順に落下して演奏が始まり、それが終わると、次のレコードが落ちてきます。こうして6枚のレコードが片面が全て演奏できるのです。
 
 JBLのスピーカーにしろ、デュアルのオート・チェンジャーにしろ、そんなに簡単に買える代物ではありません。多分その頃は、『なんで山登るねん』の連載などをしていたから、月給以外の小銭が入ったのだろうと思います。でもその頃はまだ原稿料の前借りなどはやってなかったと思います。
 山渓に電話して、「ヒエン堂にいます」というと、「今度は何買うんですか?」などと返されるようになったのは、だいぶ後のことです。
 この頃は、デュアルのオート・チェンジャーで映画音楽などを鳴らしながら、『なんで山登るねん』の原稿を書き続けていたのでした。
(続く)

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