ほんとに何十年ぶりかに『ローマの休日』を観た。
昔大好きだった映画をよりきれいな映像でDVDに収めようと考え、DVDを作る途中で映画鑑賞に入り込んでしまったというわけである。
好きな映画、残しておきたいドキュメンタリー、サッカーの試合などのDVDは、数えてはいないけれど、3000枚は確実に超えたと思われる。
「自分でも二度と見ないでしょう。誰も見ないものを作ってどうするの!」という家内の言葉を背に受けながら、せっせと録画ダビングに精を出しているわけだ。
仕事をやめるずっと前から、VHSビデオによるテレビの録画をやっていた。
ビデオテープからDVDに替わったので、録画媒体はDVD-Rとなった。
テレビの映像の場合、WOWOWとNHKなどは別としてすべてコマーシャルが挟まっている。これを含んだままの映像というのは、どうもぼくにとっては気色悪いと感じた。
最初の頃は、コマーシャルが始まるとすかさず、一時停止して録画画像から除くという難しい作業をやっていた。
まもなくDVDレコーダーなるハードが発売される様になると、まずこ内蔵のハードディスクに予約録画し編集した後に、DVDに焼き付けるということになった。
ここで問題になったのが、コピー防止のために画像に加えられているスクランブルであった。こういうことをやっているのは日本だけであって、いわゆるcprmプロテクトといわれる。
最初は、コピー・ワンスといわれるものだった。最初の録画はできるのだが、これをさらにコピーして孫コピーをすることはできない。コピーではなくムーブ(移動)しかできず、孫コピーをするとその親映像は消えるわけである。この操作の途中で誤作動が起こったりすると、どちらもなくなってしまったりする。
この方式は、ハードディスクからDVDを作る際、バックアップを取っておくこともできなかったので大変不評であった。
そこで、このコピーワンスは2008年からダビング10(コピーテン)方式に替わった。WOWOWとスター・チャンネルを除き、現在はすべてのデジタル放送でこの方式が取られている。
ダビング10は、9回のコピーと1回のムーブを許すというもので、最初に「コピー回数が8回に減ります」といメッセージがでて、どんどん回数が減ってゆき、最後は親がムーブによって消えるという仕組みになっている。
つまり、子は10枚作れるけれど孫は一枚も作れない仕組みなのである。DVDもこれに対応してcprm対応を謳ったものが割高で発売されている。プロテクがかかっているままだと、孫は作れないし、再編集もできない。まことに不自由なのである。
cprmプロテクトをはずすハードが、「画像安定装置」と銘打ってすぐに発売された。これを録画ラインの手前にはさむと、スクランブル信号を取り除いてくれるので、プロテクトが外れた映像が録画できる。すぐにCRX-4000という機種を買って使っていたが、その後CRX-8000に買い替えていまも使っている。
こういう機器は、違法であるという向きもあるのだが、次のような理屈で問題ないということになるそうだ。
著作権法(第30条1項2号)では「技術的保護手段(コピープロテクト)に用いられている信号の除去又は改変」を禁じているが、画像安定装置は、コピー制御信号を「除去又は改変」するのではなく、無視してHDDに記録するだけなので、著作権法には違反しない。
というわけだそうである。まあぼくとしては、そんなことはどっちでもいいじゃないか、無視して使い続けている。WOWOWの録画には必ず使っている。
この画像安定装置を使わなくてもプロテクトをはずすことは可能である。ダビングしたDVD画像をPCのHDに焼きこんで、ここでプロテクトをはずすのである。
インターネットで探すと、いくつかのフリーソフトが見つかる。数個のソフトを組み合わせて行うのだが、最近では、たとえばCPRMDecrypterなどいうソフトがあって、細かい操作を行うためのバッチファイルが組み込まれていて、簡単に自動実行してくれる。この操作の中で核心のプロテクトを除いたソースコードを書き出すソフトが、cprmgetkey.exeというものであるのだが、どうしてかNortonなどのウィルス駆除ソフトは、これを「トロイの木馬」型ウィルスと誤認して、駆除消去してしまう。だから、インストール時にNortonにそういって聞かせる必要があって面倒だ。
かつて、この件でNortonのサポートのお姉さんに対策を質問した折、散々文句を言ったら、使用期限を半年延長してくれたのは、ありがたかった。
録画に関するハードの変化は激しく起こり、記録媒体はアナログのVHSからデジタルのDVD、さらにブルーレイとどんどん高密度化して来た。BDいわゆるBlue-rayに変わりだしたのは、5・6年前ぐらいからだったと思われる。
もともと映画を録画する目的で開発されたDVDは、VHSとベータマックスの規格の違いによる混乱の歴史に鑑み、汎用的な規格DVD-Rを定め、容量 4.6Gを基本にしていた(倍量の2層DVDであるDVD-R DLも後にできたが)。これは2時間の録画時間をカバーし、一般の映画の時間に準じたものだった。
DVDでは、2層のDLで4時間が限度であり、ハイビジョンなど映像の高密度かの為、さらに大容量の媒体が求められていた。2002年頃より始まった光ディスクの開発は、その方式をめぐって、かつてのアナログ期のソニーのベータマックスと東芝のVHSのごとき対立を再現した。
これは次世代DVDの対立であり、「次世代ビデオ戦争」とも呼ばれた。
一方はBlue-ray派であり、他方はHD DVD派であった。
ソニーはBlue-ray派であり、東芝はHD DVD派として対立した。
前者には20世紀フォックスやディズニーが拠ってたち、後者にはパラマウント、ワーナー・ブラザーズが集まった。
Blue-rayは容量においてDVDの5倍と勝っていたが、耐久性において劣っていたし、もともと東芝ファンのぼくとしては、DVD HDに規格が統一されることを望んでいた。
しかし、ユーザーはより大容量を好んだのか、2007年ごろにはBD(Blue-ray)のシェアは9割を超えた。そして、翌2008年に、東芝はHD DVDよりの撤退を表明した。
というわけで、次世代映像メディア規格の戦いは前回とは異なり、ソニー派の勝利に終わった。
このいわゆる光ディスクの第3世代のBDは1層で25G、DVDの5倍の容量がある。
ところで、ここ数年前頃から、cprmプロテクトに関して、状況が変わってきた。最初にも述べたのだが、こうしたコピー防止の対策は日本独自のものである。その所為か、マックにはプロテクトをはずすというようなソフトが皆無といってよく、そうしたフリー・ソフトはもっぱらPCである。
近頃、PCでプロテクトをはずす環境が大いに整ってきたように思われる。
たとえば、DVDFabとか、DVDFab Passkey 8などというソフトが出回ってきた。DVDFab Passkey 8では、メモリーに常駐し、BDを入れると、自動的にスキャンし、プロテクトをはずしてくれる。
これを、動画編集ソフトで編集しDVD-RなりDVD-R DLに焼きこめばいいのである。
というわけで、BS-1で放送の映画『ローマの休日』を録画したぼくは、これをBDに焼いてPCに持ってゆき、これをTMPGEnc Authoring Works 5というオーサリング・ソフトに読みこんで編集した。
旧い白黒映画なので、ビクセル比が1:1の正方形になっている。これをよりワイドな4:3に設定した。本当にワイドな16:9にもできるけれど、それはやりすぎというものである。
容量が6Gになっているので、2層のDVDつまり4時間用のDLに焼くかどうか迷ったが、もともと旧いソースだからと思って、1層の4.6Gに圧縮して焼くことにした。
出来上がると、今度はタイトルを印刷する。いま録り続けているシリーズもののひとつ『ニキータ1997』などは、DVDのタイトル用の画像がネット上にないので、自分で作らねばならない。しかし『ローマの休日』などという有名な名画のタイトルは、ごろごろある。
選択に迷ったが、上掲のものにしたわけだ。誠に奇麗なDVDが自作できて悦に入っている。
とんでもなく話が横道にそれっぱなしになってしまった。本題のともいえる『ローマの休日』について述べねばならない。
思わず笑ってしまったり、うきうきした気分で観続け、最後にはやはり少し胸が詰まった。
アン王女が、翌日の夜更け、館に帰り、おつきのものたちの叱責を受ける。そのとき彼女はこんなことを言った。「言われる通り、私は自分の責任をわかっている。だから戻ってきたのよ」
その凜とした態度には、昔の駄々っ子のような王女の姿は微塵もなく、一同が驚く。このシーンを印象的に見ながら、昔こんな風に観たのだろうか、と考えていた。
グレゴリー・ペックが、スクープ記事にしないと決心する心理の推移も昔と違ったように観たように思うし、また最後の謁見のシーンでの並いる新聞記者の態度や振る舞いをみて、ついこの頃の記者と比べてしまっていた。
昔はたしか、王女の一夜の恋という部分に比重を置いて、観ていたと思うのだが、今回その重心が移動していたのは、たぶんぼくが年をとったからなのだと、少し寂しさを感じながら思ったことだった。