このところ、マスコミを賑わわせていた大阪・西成区の准看護師・岡田里香さん殺害事件の重要参考人ともいうべき日系ブラジル人の女性が、上海の日本領事館に出頭してきたのだそうです。
ところが、なんと領事館はこの女性の身柄をチャイナの公安当局に引き渡したのです。
この事実を知ったのは、今日(5月28日)の正午のニュースでした。いや驚きました。なんでなんや。無性に腹が立ったのです。
その腹立ちは、かつて日本海で海上保安庁の巡視船の二隻に体当たりした船長を公務執行妨害で逮捕しておきながら、時の民主党政権は、これをお咎めなしとして、ファーストクラスで送り返したという話を聞いたと時の憤りに似た感覚だったかも知れません。
夜のニューにでは、領事館に出頭してきたということは、なぜか報じられていません。報じられているのは、次のような事実だけでした。
その日系プラジル人女性が不法滞在者だった。日本のパスポートは成り済ましで不法に取得したものだった。日本と中国は犯罪者をやり取りする国際協定を結んでいないから、この重要参考人を引き取るには外交交渉が必要だ。中国では旅券法違反に問われていて、国外追放になって、ブラジルに強制送還される可能性がある。ブラジルには、自国民を犯罪者として外国に引き渡さないという法律がある為、捜査は難しくなる。などなど。
そして、領事館がなぜ中国に渡したのかということがおかしいと考える人は一人もいなかったのです。おかしい。なにを考えてるのだ。中国に引き渡す必要など全くなかったはずです。
ご存知の通り、大使館や領事館は外国にあっても、その敷地は外国のものではなく、こうした日本の在外公館は日本国なのです。そこは当然治外法権の場所です。官憲といえども立ち入ることは出来ません。
大使・総領事を始めとする職員も、その国の法律で簡単に罰することは出来ません。空港の税関を通る必要はないし、お酒なども無税で輸入することが出来ます。これは、世界中で認められている外交特権です。つまり、そうした在外公館には、その国の主権が存在するというわけです。
そうした場所である上海の総領事館に日本のパスポートを持った日系プラジル人女性が出頭した。その女性が所持するのは、紛れもない日本国のパスポートです。成り済ましで取得したとはいえ、偽物ではありません。本物です。それを所持する人を在外公館は理屈抜きに保護する必要があると言えるのです。
成り済ましでパスポートを取得するのは、明らかに違法であり、犯罪行為です。しかし、彼女の犯罪行為は日本の国内問題であり、チャイナとは何の関係もない。あの國がとやかく言う話ではないはずです。
中国の旅券法違反という話なのですが、これは今ひとつはっきりしません。まさか、日本国からその女性が持っているのは不法に所得した旅券だから違反だと言うような話の筋道は考えられません。
上海の総領事はどう考えたのか。理解に苦しむところです。
日本では大問題の殺人事件が起こっていて、その日系プラジル人女性は重要参考人となっている。当然日本に送り返さないといけません。
それが出来ない何らかの事情があったのか。たとえば、空港で止められる心配があったとか。もしかしたら、日本の警察から空港警察に連絡があったことも考えられます。
しかし、そうであっても、日本での殺人容疑者を送り返すことに、チャイナが反対する理由など何もないはずです。
百歩譲って、日本への送還が無理だとしても、領事館内に留め置いて、日本の捜査官を呼び寄せそこで事情聴取を行うことも出来たはずなのです。
こう書いているだけで、またムカムカしてきました。領事館は主権・国権というものを理解しているのか。一緒に出國したのが中国人女性だったから、変な関わりが出来るのを恐れてのことなのか。そうしだとしたら、めった刺しにされて殺された准看護師・岡田里香さんの無念はどうなるのか。
少し前の民主党政権の時、日本国の旗を立てて走っていた大使公用車が北京の公道上で止められ、国旗を奪われたにもかかわれず、たいして抗議もしなかったというアホな大使がいました。この大使は財界人で國のことより金儲けが大切な人で、国旗の意味など分からにようだったから致し方ないと思っていました。
しかし、いまの上海の総領事は、着任挨拶のブログで<1980年に外務省に入省し、海外では中国、米国、オーストラリアで勤務し、東京ではアジア大洋州地域との外交や経済協力分野の業務を手掛けてきました>と書いていらっしゃる。外交プロパーの外務官僚のようです。それなのに、今回のような対応しか取れないのは理解できないところです。
この着任挨拶の末尾は、<新総領事として、皆様との出会いという絆を大切にし、友情を紡ぐような仕事を心がけていきたいと思っておりますので、どうか皆様からのご支援を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます>と締めくくられています。
外交というのは社交ではありません。ただ仲良しになることではありません。しっかりと日本の誇りを持って筋を通すことが必要です。
友情を紡ぐのもけっこうですが、犯人を(領事館という)日本国から逃がした責任を認識し、もしかしたら犯人かも知れないプラジル人女性を日本に取り戻すように努力して欲しいと思います。
あなたは、日本の警察が最も捕らえたがっていた犯人の国外逃亡を助けたともいえるのですよ。
また日本国内でも、この在外公館の責任を問う意見が、誰からも聞けないのは、一体どうしたことなのか。日本の誰もが、日本の主権ということに考えが及ばないのだろうか。こんなことでは、在上海日本国領事館は、まるで上海公安局の出先機関ではないですか。誰かが言っているように日本はやはり滅びつつあるのだろうか。大丈夫なのだろうかと心配になっています。