一行4名がリモネットに着いたのは、夜半を過ぎた頃でした。
管理人のジャコミーナに頼んでおいたので、薪は用意されていましたが、ストーブは煙るばかりで全く燃える気配なく、全員燻されて、まるで燻製状態で、全部の窓を開け放たざるをえず、寒さに震え上がる始末でした。
一応お腹は大丈夫だったとはいえ、ニースからの夜中に開いている道中のお店もなく、何も食べずにここまでやってきたわけです。この寒さの中で、震えながら空腹を抱えて朝まで耐えるのは無理と思われました。
そういうこともあるかと、買ってきたマツモトの鯖寿司2巻と成田空港で仕入れた細巻き寿司でお腹を満たしたのでした。
一夜があけて薪ストーブの整備にかかりました。早朝6時に一人起き出したぼくは、成田で買ってきたペヤングを掻き込んで、ストーブ回復の作業にかかりました。煙突の詰まり以外に原因が考えられなかったからです。昨夜は半燃にしろ熱を持っていますから、手を突っ込むわけにいかなかったのです。
それにしても、6年前に来た時は問題なく燃えたのだから、6年間といってもこんなに煤がたまるわけがない。全く不可解なことでした。掻き出した落ちてきた煤は、ゴミ袋一杯1kg以上もあったのです。
この疑問はジャコミーナに会って解き明かされることになりました。
数日前に、4階までの各部屋のストーブをつなぐ煙突の掃除が行われたのだそうです。そこで、すべての煤が1階に集まり、部屋の掃除はしたものの暖炉には触れていなかったということだったのです。
ともかくストーブは快調にチロチロ炎を上げて燃えだしたのでした。
部屋がポカポカと暖かくなって、みんな元気百倍、夕食パーティの買い出しに出かけることにしました。
午前中にリモーネ・ピエモンテのお肉屋さんに挨拶しに行ったら、1ヶ月ほどのバカンツァとのことで、いつものサルシッチャもカルネクルーダもここでは手に入らないことがわかりました。
クーネオ旧市街のお肉屋も今日は日曜日なので閉まっているはずです。それならコープに行くしかない。ということで、午後遅くにクーネオのコープへ出かけました。サルシッチャもカルネクルーダもここでは買ったことがありませんでした。
豚のサルシッチャがあったので、生で食べれるかと聞いたら、やめたほうがいいといい、これなら大丈夫と牛のサルシッチャを勧めてくれました。サルシッチャには、牛、豚、牛豚ミックスの三種があり、どれも新鮮であれば生で食べられます。
この肉屋は良心的だという気がして、コープの肉屋に対するこれまでの不信感が薄れ、カルネクルーダは安心して買ったのです。
少し小ぶりだけど、2kgほどの網の袋入りのムール貝があったので買いました。洗いますかとおばさんは訊いて、円筒形の洗い機に入れます。ガシャガシャと音高くムール貝の洗浄が始まります。こうすることによって、ムール貝は綺麗になります。
鴨肉のソース用にベリーのジャムを買いました。ジャムでも甘いだけのものはダメで、必ず酸味が必要だとぼくは思っています。
ぼくが勝手にチーズ豆腐と呼んでいるトミーノも買いました。これは水に浮かべてあるチーズで、ちょうど日本の豆腐です。木綿豆腐の硬さのものもあれば、絹漉し豆腐様の柔らかさのものもあります。
他にもありますが、これくらいにして、次に進みましょう。 リモネットでの特別メニューの紹介に入りましょう。
まずは、この絵ですが、内容は写真キャプションをみてください。生ハムはいつもリモーネ・ピエモンテのお肉屋さんで、サンダニエーレ産を買うのですが、今回はコープのもので、それは塩気が一番少ないパルマ産になりました。
シャンパン・グラスが写っていますが、これは100年ほども前のアンティークのグラスです。何年か前に、大学の山の仲間とラモッラとういうところの有名な料理旅館に一泊で出かけた帰り、村はずれで市が開かれており、そこで買ったものです。すすけた黄色くなっていたもので、一脚1ユーロでした。持って帰って磨いたら、周囲に模様が刻まれたとんでもなく見事なグラスとなったのです。
ムール貝は、セロリを刻んで混ぜ、白ワインを入れて深なべで蒸します。このサルディーニャ産のものは形が小さいのに味がとんでもなく濃いということを発見しました。本場のベルギーのレストランで供される大型のものは、もしかしたら大味なのかもしれません。
セロリも美味しいのですが、これは取り置いて細かく刻み、やはり取り置いたスープを使ってリゾットにしてもいいし、スパゲッティのソースにしてもいい。 さて、メインとも言える鴨胸肉のソテーです。丸のまま焼くのですが、焼きすぎない様に注意しなければなりません。レアはいけないがウェルダンはもっとダメ。滑らかな舌触りを得る焼き加減が必要です。
一番ポイントはソースです。今回はポルトを使いました。黒すぐり・ジャムにポルトを混ぜ、さらにごく少量の蜂蜜とバルサミコを入れます。これらを焼いた時に出る鴨の脂と混ぜ合わせるのです。ゼリー状のソースが出来上がります。甘くて酸味がある深い味わいのあるソースができれば、成功です。
いつか家内と一緒に過ごした時は、毎日の様に鴨肉を食べていました。その時の使ったお酒は、前年の夏にチェコのパベルを訪問した時買ってきたチェリー・リキュールで、パベルのおばあさんが好物だったと薦めてくれたものでした。この時の味は最高で、日本でもいろいろ試しましたが、あんな味を出すリキュールは今も見つかっていません。 飲み物は、シャンパンのみにしました。シャルル・ドゴール空港の売店で、お姉さんが勧めてくれたルイナールという銘柄のもので、今回のリモネット特別料理によく合いました。このシャンパンを、思い出のあるアンティークのシャンパン・グラスに注ぎ、味わうという至福の時間だった様に思います。
良いシャンパンは、冷やし続ける必要はなく、温度が上がるにつれて味も変化し、肉にも合う様になるという話を聞いたことがありますが、このシャンパンもまさにそういうものの様な気がしました。
美味そう❗️