インスタント焼きそばのこと

 たしか暮れのことだったと思うのだが、ネットのニュースで次のようなことを読んだ。
 インスタント焼きそばの人気投票で圧倒的に支持されたのは、ペヤングと日清UFOだった。この二つにはほとんど差がないほどだったが、関東と関西で好みが分かれたというのだ。
 関東ではペヤングが、関西ではUFOが好まれることがわかったそうである。
 ぼくはインスタント食品なるものをほとんど、いや全くと言っていいほど食べないのだが、つい最近友達のマンションで、インスタント焼きそばなるものを食べ、それがペヤングの焼きそばだった。

ペヤング

 けっこう美味しいと思ったのと、その聞きなれない名前だったからか、その名前を覚えたらしい。家内が何日か東京に行き、作り置いてくれた食料が尽きた時、そのペヤングを思い出し、コンビニに買いに出かけた。
 以前のものとは違う巨大なパックがあり、それを食べたらお腹がいっぱいになった。後でわかったのだが、それはペアで食べる用のもので、つまり二人分のものだったようだ。

 それにしても、あの味は関東で好まれ、日清のUFOが関西で受ける。ぼくが感じたペヤングの味は、シンプルで素直な味だったから、きっとUFOはもっと複雑で深い味なのではなかろうか。そう思ったら、急に確かめたくなった。
 家内に買ってきてほしいと頼んだ。いや食べ比べたいのだよ。
 また変なことを突然言い出して、という顔でぼくを見つめている家内に、事情を説明した。二つも食べるの。いや一口味を見るだけ。そんな勿体ない。なら、お前が食べればいいではないか。
 
 1950年代の終わり頃、山登りをやる者にとって、食料は大問題だった。
 全てが携帯用として食料が揃ってきたのは、70年代になってからで、その当時は紅茶のティーバックさえなかった。だから、ガーゼの袋を作って紅茶を詰めたのだった。
 冬山合宿では餅を使ったが、そのために大学の食堂で、みんなで餅つきをしたものだった。安い鯨肉に味付けをして、野菜や乾物などを入れたものをラードで固めた、ペミカンと称するものに、この餅を入れて食料とした。
 しかし、餅はけっこう重かった。そこで見つけたのが、今のインスタント麺のような形状で固められたウエーブ乾麺だった。
 ペミカン汁に入れた麺は美味しくて、その玉蘭(ギョクラン)というブランドの麺をぼくたちは、「おいしいなあ。タマランのう」と叫びながら、吹雪吹き荒れるテントの中で食べたものだった。

 その頃現れたのが、明星チキンラーメンだった。これは熱湯をかけて2分というのが売りのラーメンで元祖インスタントフードとも言えるものだったようだ。
 確かに軽くて便利だったが、山岳部の食料とするには至らず、ぼく達は相変わらず「タマランそば」とペミカンを用いていた。
 ただ、T先輩の家に集まると、決まって、このチキンラーメンがそのまま出され、まるで茶菓子のように、麺をぽりぽり食べたものだった。
 この後、例えばインスタントコーヒーなど粉末のインスタント飲料が次々と売り出された。

 話が脇に逸れたようだ。戻そう。
 息子夫婦が家にやってきた。ぼくがインスタント焼きそばを食べたという話は、なぜか大受けした。息子はそんなものをぼくが食べるとは、全く意外だったらしい。
 家内によると、ぼくは子供たちがインスタント食品を食べることを、堅く禁じていたらしい。当時、食品添加物に過度に敏感になっていたというのが理由のようだ。
 もうすっかり忘れてしまっているのだが、パン屋でパンの耳を鶏屋で鶏ガラをもらうように言ったらしい。どちらも当時タダで貰えた。
 家内は犬の餌とかなんとか言ったらしい。パンの耳は揚げて子供のおやつに、鶏ガラは蒸し器でスープを大量に作り、カレーをはじめとして、すべての料理の出汁に使った。庭の雑草も大いに食べた。

 許されなかったから内緒で食べていたインスタントをぼくが食べたと聞いて、息子は驚いたのだが、それだけでもなかったらしい。嫁はインスタント麺などを大量に買い込んでいると息子は匂わせた。
 「家にはインスタントの倉庫があるよ。いくらでも持ってくるよ」、と息子が言い、嫁が「嘘!」と言って、横目で息子を睨んだ。
 
 さてそれで、ペヤングとUFOのチェックの結果はどうだったのか。ぼくの予想は的中して、UFOの方が深いというか複雑な味付けだった。
 ちょうど来ていた外孫の二人にも食べさせると、上の6年生はUFO、下の4年生はペヤングを選んだ。上の方が味覚に敏感だと前々から思っていたから、この結果も納得のゆくものだった。

 数日後のこと、高校の時の教え子が誘ってくれて、宮川町の芸舞妓の二人と一緒にご飯食べに行った。
 そのあと、もう夜中を過ぎてから、行きつけのバーに廻った。
 そこで、教え子は「センセ、招待された客はええ加減で酔うのがマナーというもんです。なあ、せんせを酔わすようなんを作ったげてよ」といい、イシズカ君は、コニャックにペパミント・シロップを垂らしたスティンガーとかいうカクテルを供した。
 これは、まあいってみれば生のコニャックと同じで、結構強烈だった。ぼくは、教え子が帰ってからも居残り、このシガーによく合う、グラスに半分ほどのカクテルを、明け方近くまで舐めていたのだった。

 帰る際に、イシズカ君は、「これ試してみてください」と言って、<一平ちゃん ショートケーキ味>ラベルのインスタント焼きそばを手渡してくれた。
 もらったんですが、僕食べる気になりませんので・・・・という。ショートケーキ味にマヨネーズ、なんという取り合わせ。
 焼きそばの食べ比べの話を、どうやらしたらしいと気づいた。

 家に帰ると、大きな紙袋があって、いくつものインスタント焼きそばが詰まっていた。息子夫婦が、お父さんにと届けに来たという。でもそれは、家の買い置きではなく、スーバーで買い求めてきたらしい。
 乗りかけた船だから、食べないわけにもいかないし、まあぼちぼち楽しむことにしようかと思っている。