TPPはTrans Pacific Partnershipの頭文字を取ったものであることは誰でも知っている。
日本語では、環太平洋パートナーシップ協定、環太平洋経済連携協定、環太平洋経済協定などと訳されているが、transには環という意味はない。環太平洋なら、Circum-PacificあるいはPacifice-rimだろう。
transといえば、化学が専門のぼくは、シストランス異性体という術語が思い浮かぶ。分子量は等しいが性質が異なるという異性体のうち、原子の位置が異なるシス型(cis-)とトランス型(trans-)位置異性体である。
つまり、これは環太平洋と名付け、いかにも多国間協定然とした命名がされているものの、原語の意味する所は日本とアメリカという太平洋を挟んだ二国間を意図した協定なのであって、そこに米国の意図が見えるのではなかろうか。
アメリカは、これまで2度に渉ってグローバリズムを唱え進めたが、いずれも失敗した。最初はIT革命と称してドルの還流を計った。次は住宅バブルを起こしたが、サブプライムローンのまやかしの露呈におわった。景気回復を意図して、金融緩和と財政出動を繰り返したが経済は好転しなかった。
左は、オバマの一般教書演説要旨である。2011年、2013年のそれを見ると、米国の必死さが見て取れる。アメリカは、日本を食って生きのびようとしている。ここに出て来たのがTPPであるが、それは決してグローバリズムとセットされたものではない。この一般教書演説でオバマ大統領は、「グローバル経済に失敗したからブロック経済にします」と言っているのだ。世界は、いまやグローバルリズムの時代ではなく、ブロック経済に向かっているといっていい。
日本は何十年もの間、アメリカから構造改革を迫られ続けて来た。その歴史を見るとこうなる。
これらの構造改革は、すべてアメリカから迫られたものであり、その都度、日米首脳会談が行われて来た。
日本の「失われた20年」は、この「構造改革の20年」ときっちりと重なるのだ。
このパネルの冒頭の行に示された、1989年7月「宇野・ブッシュ首脳会談」における「日米構造協議(SII)」について見てみよう。驚くべき内容が分かる。
日米構造協議(SII)とは、Structural Impediments Initiativeの略であるが、直訳すると、構造+障壁+イニシアチブとなる。構造は構造改革。障壁は非関税障壁。イニシアチブを協議としたのはとんでもないことで、アメリカが主導権を取りますよという意味である。
つまり、こちらの主導権のもとに構造改革を行って非関税障壁を撤廃しますという取り決めなのである。Initiativeを協議あるいは交渉と訳したのは、あたかも対等であるかのようの信じ込んでの自己欺瞞的な訳といえる。まったくもって許されざる誤訳というべきであった。すでに24年も前にアメリカの意図は存在し、いまTPPと姿を変えて現れたというべきなのである。
この間、アメリカが改革をしたことはなく、終始一方的な押しつけであった。今回も年次改革要望書とTPPという形を取った新しい構造改革の押しつけであるといえるのだ。
ここで、TPP(日本ーアメリカなど環太平洋パートナーシップ協定)の歴史について見てみよう。
TPPの前身は、P4パシフィック4協定と呼ばれる小規模な貿易協定で、2006年5月、シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4国のものだった。アメリカは、全く興味を示していなかった。
アメリカは、南アメリカの諸国との貿易協定を考えていたが、イラクとの戦争にかまけているうちに、これらの国はすべて反米に転じてしまった。そこでアジアに目を向けることになった。
2009年9月、オバマ大統領が参加を表明し、一挙に注目を集めるようになったといえる。2010年3月、P4協定参加国にアメリカ、オーストラリア、ペルー、ベトナムを加えた8ヶ国で交渉がスタートした。TPPと呼ばれるようになったのは、この時からである。
2010年10月にはマレーシアが加わり、参加国は9ヶ国となった。日本は、菅首相が唐突に参加を表明し、反発を招いた。2011年3月東日本大震災が発生したため、6月に予定していた参加を延期することを5月に表明。
11月ハワイのAPECで野田首相は、カナダ、メキシコとともに参加を表明した。2012年11月両国は参加を表明し、日本だけが取り残されることになっていたが、先般の安倍・オバマ会談をへて、参加の意思決定をしたと見られる。
TPPに加わったアメリカの意図については、すでに述べたが、さらにこんな事実がある。
2009年、オバマは参加をする時に、22個の作業部会に新たに2つの作業部会を加えることを要請し、認められている。その要請した2つの部会とは金融と投資であった。これが、アメリカの真のターゲットであると考えられる。
振り返れば、アメリカはすでに保険などでは目的を達しているといえるわけで、残るは簡保などの金融と投資であることは明白である。
自民党は、政権公約6項目なるものを定めている。
重要なのは第2項以下であり、最も危険なものは第5項のISD条項である。にもかかわらず、当たり前で問題にもならない第1項のみが取り上げられており、それ以外は問題とされない。マスコミを始めとする推進派は、この日本を壊滅に導くともいえるTTPを推進しようとしている。
すべては、参院選に勝利して安倍政権が安定してからのことだと思うのだが、そんな時間はないともいえる。日本をこの長い年月で染み付いてしまった敗戦国根性から脱却させてくれる指導者は、安倍さん以外にはないというのは、まぎれもない事実だと思うのだが、安倍さんもTPPを受け入れざるを得ない状況にあるとも思える。
一体どうすればいいのだろう。これという解決策は見当たらず、呆然と立ち尽くす感じなのである。
しかし、ここでめげてはならない。会津の白虎隊の気概をもって、TPPには断固反対すべきなのだと思うのだ。
それにしても、どうして日本中がこんな状態なのだろう。全く理解に苦しむばかりと感じていたら、なるほどそういうことか、というレポートを見つけた。
中野剛志氏の「TPP推進派はストックホルム症候群である」という一文である。早速<高田直樹ウェブサイトへようこそ>へ転載することにした。一読いただきたい。
(注:この稿は、桜チャンネル「討論!亡国最終兵器TPP Part2」を参考にしており、図表はそこのものです)