世界はいま大変動の波の中にあるといっていい。これは否定できない事実であると言えます。
しかしその変動というのは、どこに現れているのか。そのどれに注目したらいいのか。またその変動をどう捉えるのかというと、その見方はじつに種々様々で、どれが正しくてどれが間違っているのか。これがどうも分からない。さらには、どう正しくてどう間違っているのかとなると、これまた複雑で全く混乱してしまうのです。
第二次世界大戦のあと、世界の覇権は完全にイギリスからアメリカに移りました。イギリスは世界の主導権をアメリカに譲りましたが、密かに後ろに回って、いわゆるバックシートドライバーの立場を維持しようとしていたようです。しかしいまはもう、そのやり方も捨てたと思います。
日米戦争の後、白人先進国が目指していた世界の植民地体制は崩壊しました。イギリスは力を失い、世界通貨はボンドからドルに移りました。いわゆるブレトン・ウッズ体制です。世界の覇権を握ったアメリカは、地政学的には自由主義・資本主義と社会主義という対決の冷戦構造を作ることによって、世界の安定を作りました。
ソ連邦の自壊が近づき、冷戦構造の旨味を失ってきたアメリカは、イギリスとともにG7という経済先進国からなる世界の意思決定機関を作ります。G7にはロシアも加わり、G8とも呼ばれました。しかし、これはゴルバチョフの要請で、冷戦を終わらせる代償に参加させることにしたともいわれ、しっくり行かなかったようです。
G7代表のアメリカは、金融経済による支配体制を進めます。新自由主義、グローバル主義などという一種のまやかしは、サブプライムローン問題で馬脚を顕わすことになりました。そしてリーマン危機がおこり、ブレトン・ウッズ体制という単独基軸通貨が問題となって、G20が作られることになります。ここでは基軸通貨を複数化する狙いがあったのですが、それは進行しませんでした。
今回のアジアインフラ投資銀行(AIIB)は、それが上手くゆくかどうかは別として、こうした流れに乗ったものだと見ることができると思います。
中国によってAIIBが公表されたのは昨年のことだったのですが、ぼくがそれは知ったのは3月のプライムニュースによってでした。この番組は3月16日の「全人代閉幕・・中国の新シナリオ
減速する中国経済と日中関係の今後を徹底検証」というものでした。ここで取り上げられたAIIBを大注目だとぼくは思い、さっそく10分間のその部分だけを切り出してYouTubeに上げたのでした。「中国の狙いとアジアインフラ投資銀行」
この番組のゲストは次の三氏でした。「小野寺五典 元防衛省 自民党政調会長代理
」「興梠(こうろぎ)一郎 神田外語大学
」「小原凡司 東京財団研究員・政策プロデューサー」
いずれも極めて明晰な論者で、大変真っ当な見解を述べておられると思いました。
このころは、イギリスの参加が驚きをもってみられていました。それは、ロシアや中国を閉め出すためにG7を作った主役がイギリスだったからです。イギリスにつられたかのようにヨーロッパ諸国も参加してゆきました。その数はあれよあれよと増え、50ヶ国を越えました。これには当の中国自身も驚いたはずです。
当然アメリカは参加しません。日本も見送ります。これは当たり前の話で、どこから考えても駄目ですし、金勘定のみからいってもリスクが多すぎるのは素人にも分かることです。フランスやイタリアが参加するのとは訳が違うのです。日本はGDP3位の國なのです。イギリスには、カナリー・ワーフやシティーの銀行からすれば、中国はいいお客様ですし、他の国々も参加要請を断れない事情もあったようです。いずれにしろ名義貸しみたいなものだったのでしょう。
「バスに乗り遅れる」という馬鹿げた考えがあります。そんな単純な話ではないと思うのです。
テレビや新聞はそれぞれの立場を明確にしないまま政府の対応をそれとなく批判しているかのようです。
朝日や毎日などの親中反日新聞なら納得できます。しかし日本経済新聞が親中であることに気付く人は少ないようです。なぜなら経済はなんとなく政治とは分離している、だから中立と考える。しかしそれは違うようです。
「政冷経熱」などというのは「一衣帯水」や「日中友好」などとおなじ中国の勝手ないいくるめと思います。経済こそもっとも政治的であり、日本経済新聞は反日であるという気がしています。かつて、中国、中国と唱え多くの経営者を中国に向かわせた結果、ひどい損害を被らせたのはこの新聞でした。
この問題に関するコメンテーターどもの意見を聞くのは大変面白い。その人を考えや立ち位置がなんとなく透けて見えるからです。そんな人がよくいう言葉に「中国にはお金がありますからねぇ」というのがあります。ほんとにあるのでしょうか。
中国の外貨準備高は香港を含めて4兆3千億ドル、単独で3兆900億ドル。アメリカ国債は1兆5000億ドル。その差額はどうなったのか。消えてなくなった。CIAの調査によれば最低でも1兆800億ドル最悪では3兆8700億ドルが不正に海外に送金されたという。
これらのことが分かったのは、2013年12月27日にアメリカの金融当局の財務省が中国要人関連の口座に関してすべて報告するように命じたからなのだそうです。中国にはお金がない。それが証拠に中国はお金を借りまくっている。日本の国債を5兆円も買い込んでいたのだが、それもいつか売り払っていたといいます。
お金のない中国には、過剰生産した鉄鋼やセメントなどが腐る程余っている。これをアジアのインフラ整備に使いたい。お得意の中国人労働者派遣によって失業問題の解決を計りたい。そんな中国が考えた一石二鳥・三鳥の方法がアジアインフラ投資銀行だった。
だからAIIBのことをアジアインチキイカサマ銀行などというのは、褒められない悪態みたいなものだと思いますが、在庫処理銀行、失業対策銀行などというのは、なかなか納得のいく命名だと思います。
歴史の流れとして中国が大国となるのは間違いのないことでしょう。では日本はどうするのか。それが問題です。そういう意味では、今回のアジアインフラ投資銀行は一つの試金石と言っていいと思います。世界のほとんどの國が参加を表明したのは、先の大戦後の世界の仕組みが崩壊してきていることの証左であるともいえます。だから、それを予知した世界の国々は、この「ノアの方舟銀行」に乗ったのだ。そんな馬鹿げた極端な意見を持つ人が現れる始末です。
日本は、明らかに他の国、とくにヨーロッパの国々とは地政学的に異なります。かの國たちは中国からなんの脅威も受けないのです。彼らが受ける脅威と言えばロシアです。
色々な意見・見解のある中で、ぼくが一番正当な見方だと思うのは、あの電撃的な米中国交回復をお膳立てし、親中国派の筆頭と目されていたヘンリー・キッシンジャーの発言です。彼は次のように述べています。
「中国は平等な国家からなる世界システムになじめず自国を世界のトップ、唯一の主権国家と考え外交は交渉よりも世界階層秩序での各国の位置付けを決めるものと考えている。もし中国が他国に『既存システムか、中国主導の新秩序か』の選択を迫るとすればアジアでの新冷戦の条件を作り出しかねない」
日本にとってアメリカは安全保障上から不可欠の國です。離れる訳には行きません。とはいえ、衰退するアメリカとともに萎えてゆく訳には行きません。民主主義国の日本にとって重要なのは国民の考えです。反日マスコミに流されていると知らぬまに中国の属国になってしまうと思われます。
国民一人一人が自覚する必要がある。まず、目先のことを考えないで、長い目を保つこと。カネかねと考えないで、人間の誇りを重視すること。日本の国の独自性に思いを致すこと。
独自性とは、他の国にはない点に注目し、それを守ることです。その一つは天皇の存在です。國の古さ・歴史もさることながら、万世一系の天皇陛下が存在することは、どこの國にもないことです。
ぼくの勝手な考えによれば、今後日本が重視すべき國はインド・パキスタンそれにロシアです。
ここでは、さらに習近平の「一帯一路」構想に関して、カラコルムハイウェイと明の鄭和の航海について述べようと思っていたのですが、別の機会に譲ります。また、この<葉巻のけむり>に書いた「中華民族の夢・習近平の妄想」が参考になるかもしれません。ご一読ください。