一番あって欲しくない結末へ

 日本人人質拘束事件はどんどん最悪の結末に向かって進行しているように感じられます。
 この事件に関しては、テレビの報道番組に多くの専門家が登場し、それぞれの意見を語っています。
 ぼくは、この事件が発生して以来、ほとんどすべての番組を録画し、そのコメントや見解をウオッチしてきました。それらを総括していえることは、政府関係者の口はだいたい重い。遠い人ほどぺらぺらしゃべり、少々的外れと考えられることも多いように感じていました。
 この事件は、ISISが突如二人の日本人に72時間以内に2億ドルの身代金を払わなければ殺害するという予告をするという動画をYouTubeに揚げたことから始まりました。

 この手法はISISの常套手段で、これまでに、アメリカ人3名、イギリス人2名が殺害されています。しかし解放された人質もいます。
 日本はアメリカの同盟国であるとはいえ、アメリカのいうテロ戦争に加わっている訳ではないし、人道支援をしている平和主義の國であって、まさかこんな騒動に巻き込まれることはないだろう。みんなそう思っていました。
 ところが、そのまさかが起こったのです。これは本当にビックリするような事件でした。2億ドルを日本政府が支払うと思った人はいなかったでしょう。しかしかなりの人は交渉によってお金で解決できると考えたかもしれません。

 72時間の期限が近づいても、日本国民の反応は極めて冷静だったといえると思います。一部には北海道の民主党の女性議員などや、共産党議員、山本太郎のように安倍政権の批判をおこなった人もいましたが・・・。共産党の議員に対しては志位委員長が諫めるということもありました。マスコミも抑制した報道で、政府の解決への努力を報じていたようです。
 こうした事案の場合、素人が外野で騒ぐことは、害になりこそすれ益することは全くないのです。
 72時間が経過した時、期限が近づいたという動画が上がりました。あまり信用できない出所不明の動画などといわれていました。

ISIS_Youtube そしてあの衝撃の映像を掲げた拘束日本人の写真がアップされたのでした。これは、ISISがこれまでいつもやってきたやり方でした。
 テレビでは、この掲げた写真の左部分をスクリーンを架けて見えなくしたり、上部のみにカットしたりして、生首の乗った死体の映像を写しませんでした。
 ISISは普通の場合、動画を使うのですが、ここでは静止画像を使い音声のみが流れるという初めての手法を取っていました。これに関して、いくつかの解釈がなされました。動画にする時間的余裕がなかった。動画だとファイルサイズが大きくなって困る。場所を特定されなくする為の背景などの画像処理が動画だと手間がかかる。
 本人でないことを知られない為である。ここで、音声分析が行われることになりましたが、結果は99%本人という結果と100%別人という正反対の結果が出たようです。別人という判断は一つのテレビ局で一回出ただけで、他は全部本人、政府見解も本人というものでした。

 なぜ静止画にしたかという理由に、後藤氏がしゃべることを拒否したからではないかということが考えられ、ぼくは大いに納得したのでした。彼ほどの根性の男なら(そんな危険地を承知で乗り込んだ訳だから)死を覚悟してそれぐらいはやるだろう。日本男児はそうあって欲しいとぼくは思ったのです。
 ここで彼が読まされたという原稿の内容は、シリアに死刑囚として囚われのイラクのアルカイダの女性を釈放すれば私は助かるというものでした。期限はつけられていませんでした。
 突如条件を変更する。これも初めての手法でした。戦時下において行われる捕虜交換という手法です。じっさいの所、トルコは大人数の人質の解放を勝ち取ったという実績があります。

イラク、シリア、トルコ、ヨルダンの位置関係

イラク、シリア、トルコ、ヨルダンの位置関係

 お金はいらない、人質交換ということになり急にトルコがクローズアップされました。トルコもヨルダンに劣らず親日感情の強い國です。
 事案発生時、対策本部をヨルダンに置くかトルコに置くかで政府内ではかなり意見が対立したといいます。しかしヨルダンということになりました。アメリカへの密着度はヨルダンの方が遥かに大きい。一緒に空爆をしている國です。
 アメリカはISISを攻撃するためシリアへの空爆を主導したのですが、これにサウジアラビアを始めとする中東五ヶ国が参加しました。ここにヨルダンは参加しています。フランスやイギリスは参加しませんでした。
 というわけで、ヨルダンはISISの正面の敵なのです。そこに対策本部を置くのはどうしたものか、という考えは誰でもが持つでしょう。しかしこうした交渉は単線ではなく、間違いなくトルコからも行われていたはずです。むしろ、そうした表に出ない道こそ本筋かも知れないと思っていました。 

 今日になって、新たな条件が示されました。前回と同じ静止画で、声も同じものでした。捕虜の交換条件を2名対2名に変え、期限を24時間と切りました。
 大変なことになったと思いました。胸が詰まって息苦しくなりました。
 だいたい今回の進行は、初めてのことばかりでした。
 これまでの例でいえば、動画がアップされて要求が突きつけられた場合、すべては殺害に至っています。そのすべての要求は、空爆を止めろというもので、すでに大きな被害を与えられているもので、報復という意味があったと思われます。
 一方解放された場合は、動画などで取り上げられることはなく、秘密裏に取引が進行し、公式には否定されているにしろ、金銭の取り引きがあったと推察されるのです。トルコの場合は百数十人の捕虜兵士との交換でした。一説には、ISISにむかう外国人パッセンジャーの通過を保証するという条件があったともいわれます。

 いまになって明らかになってきたことですが、この事案は拉致されてすぐの時点で、家族に身代金の要求があったということです。
 日本政府はもちろん対応し、交渉に当たったのですが、その内容は明らかではありません。交渉が継続している途中に安倍総理の中東訪問があり、あの身代金要求になったのです。
 ISISは最初からお金が目的ではなかった。それが駄目なことはすでに分かっていた訳で、パフォーマンスとして安倍さんの人道支援額と同額を掲げたのでしょう。その時すでに日本人一名の殺害は既定のことでしたし、もしかしたらすでに殺害されていたのかもしれません。
 そして、同じ文脈でISISは、戦争していない國への捕虜交換を提示してきました。普通は考えられないことです。主権国家に対して囚人を釈放してくれとはいえません。大変困難状況になりました。裏道の解決などは望むべくもなくなりました。
 頼みの綱はトルコを介しての解決が残されているのではないだろうか、などと素人のぼくは胸を痛めていたのです。

 突如事態が進展し期限が示されました。なんと24時間です。2名対2名の交換という条件です。アメリカがOKする訳はありません。ヨルダンの承諾もほとんど望みなしです。国王は大変な親日家といわれますが、そんな絶対権力は持っていませんし、そんな力はないでしょう。
 トルコからの別ルートを生かすにも時間がありません。
 ISISはすでに処刑を決めており、9割以上の確率で2名を殺害するでしょう。
 世界中の耳目を集め、注目させておき、恐怖を与えるような方法で殺害する。これこそがテロの本道であり、このセオリーに忠実に実行されると思われます。
 しかし、奇跡が起こるとぼくは信じたい。0.01%の可能性でもゼロではありません。その可能性に望みを託し勇気ある我が同胞の為に祈りたい。そう思っています。